離陸するか 中国が世界に問う「737キラー」
(2012年11月25日 Forbes.com)
中国の国有旅客機メーカー、中国商用飛機(COMAC)は、先日閉幕した珠海航空ショー(広東省)で、同社がC919型の旅客ジェット機を50機、受注したと発表した。このうち10機は米ゼネラル・エレクトリック(GE)系のGEキャピタルアビエーションサービスが発注し、GEはエンジンと航空電子機器を供給する。残りの40機は中国の航空会社、河北航空と幸福航空からの受注。これで、中国で初となる本格的な商用機であるC919の受注件数は380機に達した。
座席数が168席のC919は中距離旅客機で、米ボーイングの737型や欧エアバスのA320と競合する。このクラスは市場規模が年1千億ドルに上る世界ジェット旅客機市場で最大のセグメントだ。
737型は大して大きくもないジェット旅客機だが、ボーイングにとっては非常に重要な存在だ。今年、ボーイングは今月13日までに全体で1056機を受注しているが、このうち実に1031機、率にして97.6%が737なのだ。
このため、もしもCOMACがC919の運用コストを737やA320に比べて10%抑制する目標を達成できれば、ボーイングは打撃を受ける可能性がある。
すでに、大手航空会社は中国製航空機の登場を待ち構えている状態だ。COMACによると、英ブリティッシュ・エアウェイズとライアンエアー(アイルランド)はC919の導入に関心を示している。また、珠海航空ショーでは、来年後半からマイアミと中米を結ぶ路線の運航開始を目指すイースタン航空とCOMACが、合意覚書に調印したと発表した。イースタン社の事業開発担当上席副社長、ジャック・シー氏はC919を米国の路線に導入したいと語った。
珠海航空ショーで発表された受注数をみる限り、C919は商業的に十分に成功しそうに見える。COMACによると、C919の損益分岐点は300から400機の間にあるという。
しかし、COMACはまだシャンパンで祝杯をあげる状況にはないようだ。なぜなら、C919は尾翼が緑と白、胴体が青と白で仕上がりは上々に見えるが、実際に滑走路から飛び立つのはこれからだからだ。2016年に納入予定の1号機が初飛行するのは2014年の予定だ。
アナリストたちは、国営のCOMACがスケジュール通りにことを運べるか懐疑的だ。今のところ日程に遅れはないが、COMACはすでに予算をぎりぎりまで使い切ってしまっている。「端から見る限り、なんとかぎりぎり、予定通りに初フライトを迎えられる状態ではないか」。アビエーション・ウイーク誌に対し、「COMACの航空機開発に精通した関係者」がこう語っている。「もはや、これ以上の遅れは許されない」状況なのだという。では、実際に初フライトが予定通り行われる可能性はどれくらいなのか。「50%には遠く及ばないだろう」とこの関係者は指摘する。今年、機体の開発段階は折り返し点を過ぎたが、先はまだまだ長いという。
COMACが開発する座席数が90のジェット機、ARJ21型機の状況も、あまり安心できる状況にはない。同社はつい最近、ARJ21の納入を再び延期し、今回は「1年から2年」遅れると発表したばかりだ。同社のルオ・ロンハイ副社長は「認証を受けるためのノウハウとインフラ両面の不慣れ」を延期の理由に挙げた。「いくつかの主要部品が性能不足で飛行テストを通過できない」ことが再延期の原因だ。この地域路線用ジェット機が初飛行したのはちょうど4年前だったが、当初は2007年には納入を始める予定だった。
アナリストたちは、ARJ21の遅れはC919にも影響を及ぼすとみているが、ルオ副社長は反論する。「ARJ21を通じて、C919が耐空性認可を得るのに必要な経験を蓄積できる。民間向け航空機を製造する技術レベルを全体的に底上げできるはずだ」と主張する。
ルオ副社長が正しいかどうかに関わらず、ボーイングもエアバスも静観しているわけではない。両社はそれぞれの人気モデル、737MAXとA320neoの改良型を開発する計画を持っている。中国初のジェット機を成功させようとしているのは立派だが、計画の遅延は言うまでもなく致命的になる。
COMACをめぐるもう一つの懸念材料は、中距離機の市場規模が期待されているほどには大きくないかもしれない、という点だ。現時点での予測はCOMACを「空に限りなし」と強気にさせているし、こうした楽観論は中国人に限ったことではない。例えばボーイングは中国市場について、今後20年で新たに5260機の商用機が必要だと予測している。このうち、4070機はC919のような客室に廊下が一つの中短距離機とみている。
COMACも同様に強気姿勢だ。今後20年で世界の旅客機数は倍増すると信じている。もしその通りなら、機体の需要は3万1739機、金額にすると3.9兆ドルにのぼる。中国だけでも5000機近くが新たに必要になる。COMACの予測によれは、中国の旅客数は2031年にかけて毎年7.2%ずつ増える。
言い分は正しいかもしれない。確かに、中国の旅客数の伸びには目を見張るものがある。ただ、中国政府が全国に広げようとしている高速鉄道網の計画は、こうした旅客の一部を奪うだろう。より重要なのは、中国経済が天井を打っており、今後は長い下降が続く可能性があるということだ。この2点は特にCOMACにとって影響が大きい。というのも、C919の販売で自国の市場をあてにしているからだ。GEは20機の購入を決めているが、残りの360機はすべて中国の航空会社と航空機リース会社からの発注だ。
もっと言うなら、中国だけでなく世界経済も先行き不透明で、とりわけユーロ圏の危機が拡大しかねない情勢だ。このため、一部の楽観的なアナリストらが言うようにCOMACがこの先10年でエアバスやボーイングに追いつけたとしても、新型機の需要は予測よりもはるかに小さいかもしれない。
中国の航空会社はC919の完成を待っているわけではない。上海の拠点をおく中国東方航空はつい最近、エアバスA320を60機、発注したと発表した。納入予定時期は2014年から17年。一方、中国東方航空は昨年、ボーイングの787ドリームライナー24機の発注を取り消すかわりに、737を45機買うと決めた。737への切り換えは、このクラスの市場の力強い需要を実証しており、C919にとっても良い知らせだ。ただ、あてにしていた中国の航空業界にライバル機がさらに加わることで、C919が無事完成しても、売り込むのはかなり難しくなるだろう。
そもそも、中国で中距離機を生産するのはCOMACだけではない。エアバスは2009年から天津市の北部でA320を組み立てており、先月には100機目をこの工場から納入した。この12月は、同じ工場で新たに4機を完成させるだろう。
野心的な計画を立てたCOMACはC919を生き残らせるために、中型機市場の熱気がさめないうち一刻も早く離陸させる必要があるだろう。
by Gordon G. Chang (Contributor)
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