「原発ゼロ」矛盾随所に 再稼働や核燃サイクル継続
新エネ戦略決定
政府は14日、2030年代に原発稼働ゼロを目指す方針を盛り込んだ新たなエネルギー・環境戦略をまとめた。「原発に依存しない社会の一日も早い実現」をうたう一方、安全を確かめた原発の再稼働や使用済み核燃料の再処理事業の継続も明記。原発の廃棄と維持の両方向の議論を併記し、矛盾や実現性の危うさを抱える内容になった。
14日午前、首相官邸に枝野幸男経済産業相、細野豪志原発担当相ら関係閣僚が駆け込んだ。野田佳彦首相も交えた約1時間の議論で新戦略の文案を固めた。
衆院解散・総選挙もにらんだ急造の戦略は詰めの甘さが随所に目立つ。「原発稼働ゼロ」の時期や手法は明確でなく、再生可能エネルギーを2030年に10年の3倍に増やす目標も実現のめどは立たない。電気料金の上昇で家庭や企業に及ぶ負担増も不透明だ。50年代まで稼働できる青森県と島根県で建設中の原発の扱いも触れなかった。
発送電分離などの電力システム改革、火力発電への傾斜で後退が予想される地球温暖化対策、原子力技術者の維持など、重要課題の結論は年末まで軒並み先送りした。
まとまりを欠く戦略の下地は民主党が作った。6日、原発の40年運転制限の徹底や新増設しないなどの3原則を柱とした提言を盛り込み、政府に実行を迫った。政府内では「民主案を反映すればいいので新戦略はすぐ作れる」と楽観論が流れたが、事態は急変。拙速な作業に各方面から批判が集まった。
まず異議を唱えたのは使用済み核燃料の関連施設が立地する青森県だ。民主提言には、使用済み燃料を再処理する核燃料サイクル政策の見直しが盛り込まれた。
これに対し県六ケ所村議会は7日「国が再処理から撤退する場合、保管している使用済み燃料を村外に持ち出すことを求める」との意見書を全会一致で採択。「拙速に決定すれば青森が絶対にもちませんよ」。7日午前、官邸の執務室で細野担当相は野田首相に決定の先延ばしを迫った。
海外の視線も険しくなった。米国のポネマン・エネルギー省副長官は11日、民主党の前原誠司政調会長に原発ゼロに伴う負の影響を最小化するよう要求。政府は「稼働ゼロ」の方針を残したまま再処理事業を堅持する方針に立ち返り、「青森県を最終処分地にしない約束を守る」と明記した。「核のごみ」への抵抗は強く、最終処分地の受け入れ先は見当たらない。
野田首相は14日の会議の挨拶で「原発ゼロ」の言葉は使わなかった。「あまりに確定的なことを決めるのはむしろ無責任な姿勢だ」と述べ、戦略が玉虫色に終わっている限界を自ら認めた。
青森県むつ市の宮下順一郎市長は「核燃料サイクル政策の継続は評価に値する」としつつも「再処理を続けながら『原発ゼロ』を目指すのは矛盾している。国に説明を求めたい」と語った。