韓国大統領に朴氏 初の女性、保守政権が継続
【ソウル=小倉健太郎】第18代大統領を選ぶ韓国大統領選挙は19日投開票され、保守系与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クンヘ)候補が当選した。革新系最大野党、民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)候補を破った。女性大統領の誕生は初めて。韓国国民は保守政権の継続を選択したが、所得格差の拡大への不満は根強い。従来の財閥企業を軸とする輸出主導の経済モデルが修正を迫られるなか、朴氏は成長維持と格差是正の両立という重い課題を背負う。
朴氏は19日深夜、ソウル市中心部の光化門で「この勝利は国民の皆様の勝利です」と宣言。20日午前にはソウル市内で記者会見し「正しい歴史認識を土台に、東北アジアの和解・協力と平和が拡大するよう努力する」と強調した。旧日本軍の従軍慰安婦問題などを念頭に、日本にクギを刺した上で関係改善を探る姿勢を示したものだ。
保革有力候補による一騎打ちとなった選挙は、両氏の得票率差がわずか3ポイント強という大接戦になった。文氏は若者に人気の高い安哲秀(アン・チョルス)前ソウル大教授との候補一本化に成功し猛追したが、保守や中高年層など強い支持基盤を着実に固めた朴氏が逃げ切った。
中央選挙管理委員会集計の投票率(暫定値)は75.8%で、前回(2007年)の63%を大幅に上回った。朴氏は2013年2月25日に大統領に就任する。
朴氏は1960~70年代に「漢江(ハンガン)の奇跡」といわれる高度成長を導いた朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領の長女だ。07年の前回大統領選はハンナラ党(現セヌリ党)の予備選で李明博(イ・ミョンバク)氏に苦杯を喫した。
韓国は李明博政権のウォン安誘導を背景に、財閥企業が輸出競争力を高めて世界シェアを拡大し成長を達成した。だが、欧州債務危機の拡大や他の新興国との競争激化で、輸出頼みの成長には陰りも見える。韓国内でも「財閥だけに富が集中した」という庶民の不満のマグマがたまる。朴氏は成長の果実をいかに公正に分配するかという懸案に取り組む。
朴氏の基本政策は、米韓同盟の重視や成長の継続など現政権に近い。ただ李大統領は「大企業優遇」と強い批判を浴びて支持率が低迷した。朴氏も選挙戦では穏健ながら財閥規制の強化に言及し、雇用拡大や中小企業の保護などに重心を置く。新政権が雇用確保など具体的な成果を出せなければ、再び財閥改革の圧力が強まる可能性もある。
新政権は、李大統領が8月に島根県・竹島(韓国名・独島)上陸を強行し冷え込んだ日韓関係の改善も担う。朴氏は日本を「重要な友好国」と位置付け、日韓経済連携協定(EPA)の交渉再開にも前向きな態度を示すが、竹島の領有権や従軍慰安婦問題などでは厳しい姿勢を崩していない。
対北朝鮮政策のかじ取りも難しい。朴氏は李政権で中断した対話の再開を掲げるが、「信頼の構築が必要」と北朝鮮側にも軟化を要求する。北朝鮮は12日に事実上の長距離弾道ミサイル発射を強行し、日米は国連安全保障理事会の決議による制裁強化などで連携する。日米との協調重視を打ち出す朴氏の選択肢は限られている。
朴氏は年内に政権引き継ぎ委員会を設置。大統領就任に向けて政治空白が生じないよう政権移行作業を進めながら、新政権の骨格人事を固めていく方針だ。