ロボの手も借りたい 急増する老朽インフラを点検
下水道管や橋梁などインフラの老朽化で、点検や補修にあたるロボットに注目が集まっている。東日本大震災の復興需要に東京五輪関連の事業が加わり、建設業界で人手不足が深刻になるなか、7月1日には道路の橋やトンネルの定期点検が地方自治体に義務化される。活躍に期待が高まる最新ロボットの開発現場を訪ねた。
人が入れない下水を調査
「人が入れない場所を調べます」――。NECは日本下水道事業団などと共同で下水道管の検査ロボットを開発し実証実験を進めている。下水道管には様々な太さがあり、直径20~80センチ程度の管が主な対象だ。
現在の機器は長さ120センチ、高さ15センチ。カメラを8台搭載する。遠隔操作で下水道管の中を動き回り、破損や腐食などトラブルのタネを調べる。管の太さに応じてロボット上部にあるカメラを上に延ばすこともできる。NEC交通・都市基盤事業部の赤池孝夫マネージャーは「これまで培ってきたロボット技術を応用した。もう少し短く軽くなるように改良を進めたい」と話す。
道路陥没が年3900件
開発の背景にあるのが急速に進行する老朽化だ。
国土交通省などによると、国内の下水道管の総延長は約45万キロ。その約2割は敷設から30年が経過し、約1万キロが耐用年数とされる50年を超えている。2012年度には管の老朽化などが原因の道路陥没が全国で約3900カ所発生している。実証実験に参加する千葉県船橋市でも「特に団地などの老朽化が顕著で、既に陥没などのトラブルが起きている」(下水道部)という。
目視による現在の検査では1日に約300メートルしかできないが、ロボットであれば約1キロが可能で精度も高い。費用も目視では1メートル当たり約2000円かかるが、半額程度に減らせる可能性がある。NECの赤池マネージャーは「14年度内にも量産体制にこぎ着けたい」と意欲を見せる。
10年後には4割以上の橋が50歳以上
老朽化の問題は下水道管に限らない。国交省によると、全国で建設から50年以上経過する道路橋は13年の18%から23年には43%に、トンネルの割合は同様に20%から10年後には34%に上昇する。同省は地方自治体に道路橋やトンネルの定期点検を義務付けることを決め、7月1日に省令が施行される。約70万本ある長さ2メートル以上の橋梁や約1万本あるトンネルが対象。5年ごとに4段階で評価し、危険と判断すれば通行規制などで対応し事故を未然に防ぐ狙いだ。
東急建設は道路や線路などを支えるコンクリート製の橋脚を比較的簡単に補強できるロボットを、産学連携で開発した。医療用ギプスの固定方法を参考にしており、水で固まる樹脂を染み込ませたガラス繊維のシートを柱に巻き付ける仕組み。ロボットはヤドカリのように柱に巻き付き、上下動しながら補修するので高い位置でも安全に作業ができる。
東日本大震災ではコンクリート製の橋脚が損傷するケースが少なくなかった。東急建設技術研究所の中村聡主任研究員は「従来工法と比べて3分の1程度の時間ですむ。災害時の応急処置としても効果を発揮する」と話す。
電柱や通信ケーブルの老朽化対策にも新技術が登場している。NTTグループは走行中の車から精緻に調査する技術を開発。車を走らせながらレーザースキャナーで測定し、3次元のデータから異常を発見する。NTTグループは全国で約1200万本の電柱や総延長211万キロのケーブルを保有。これまで目視での点検を担ってきた熟練作業員の減少に対応するとともに、自動化で維持コストを抑える。担当者は「3年後をメドに実用化を目指したい」と力を込める。
国内市場は20年度に6倍
調査会社の矢野経済研究所(東京・中野)は点検ロボットの国内市場が20年度に14年度の6倍に拡大するとの予測を発表した。海外への展開も有望だ。新興国などへのインフラ輸出では、建設だけでなく点検・補修も一括して提案することで競争力を発揮しそうだ。ロボットの開発現場は、古くなったインフラがロボット産業を成長させる可能性を感じさせた。(映像報道部 近藤康介)