東電支援、実現は不透明 「10兆円」に政府慎重
東京電力が原発事故の賠償や除染の費用の追加支援を政府に求めた。今後、費用が最大10兆円規模に膨らみ、東電だけでは支払えないと判断した。東電は電力自由化や福島復興に取り組むのと引き換えに支援を引き出したい考えだが、財政負担を嫌う政府は慎重。政治状況も混沌としており、実現は不透明だ。
東電は5月に総合特別事業計画をまとめたばかり。わずか半年で行き詰まりを認めるのは2つの誤算がある。
1つは10.28%で申請した家庭向け値上げを8.46%まで圧縮されたこと。年840億円の減収だが、これは追加のコスト削減でなんとか補う。問題は柏崎刈羽原発の再稼働がみえないこと。来年4月からの運転を見込んでいたが「原発ゼロ」の政府方針などで絶望的。追加支援なしには目標の来期の黒字化は難しいとみている。
「批判は覚悟」
東電は経営方針で賠償と放射線量が高い地域の除染で費用が5兆円を超す可能性があると指摘。一部試算では除染ではぎ取った土壌を保管する中間貯蔵施設なども含めると10兆円規模になる。従来は除染の費用は見込んでいなかった。
東電は政府の原子力損害賠償支援機構から賠償や除染で資金援助を受ける。費用が10兆円になれば「一企業のみの努力では到底対応しきれない」。援助資金は返す必要があり、仮に5兆円でも返すのに23年かかる。
東電は5月の総合計画に「追加的措置の可否の検討を政府に要請」と盛り込み、水面下で政府に検討を促してきた。持ち出したのが電力制度改革。「追加支援があるなら発送電分離も競争もやる」。東電幹部は経済産業省に伝えている。自由化の先兵となる代わり支援を引き出す。「重荷を背負ったまま競争はできない」(広瀬直己社長)
財務省は追加の財政負担には後ろ向き。東電にとって誤算だったのは経産省の一部も慎重なこと。ある幹部は「東電が国を訴えて国の責任を認めさせたらどうか。責任もないのに追加支援は難しい」と伝えたという。
年末には電力制度の改革案がまとまる。「改革案と並行し市場の3分の1を占める東電の扱いも議論してほしい。いまお願いしないと議論されない」(嶋田隆取締役)。社外取締役全員が会見で訴える奇策に出た。このままたなざらしになれば巨額の負債で首が回らない「ゾンビ企業」になりかねないと危惧したからだ。「批判も覚悟。確信犯」。東電幹部は語る。
照準は衆院選後
賠償、除染、廃炉の費用をすべて東電に負担させ、国は原則として負担しない仕組みが限界を迎えたともいえる。政府は来年夏までに原賠機構法と原子力損害賠償法を見直す方針。いずれも根っこは原発の負担を国と事業者でどう線引きするかという問題。法律の見直し作業と追加支援の議論がからんで進みそうだ。
ただ、衆院選を前に世論の批判を浴びかねない追加支援を現政権が決断する公算は小さい。東電は政権交代後に照準を定めるが、道筋はみえない。実は除染の費用が膨らむかも微妙。土壌の保管場所がなく作業が進まないからだ。東電が昨年度の除染費として負担したのは数十億円とされる。少なくとも費用の全体像が見えなければ追加支援の議論も本格化しない可能性がある。
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