タイ反政府派、一斉デモ再開 首相府や国会を包囲
【バンコク=高橋徹】インラック前首相が失職し、政情混迷が深まるタイで、タクシン元首相派政権の存廃を巡る攻防が再び激しくなってきた。反政府派は9日、政権打倒と暫定政権の樹立を目指してバンコクで一斉デモを再開。首相府や国会を包囲した。一方、前首相の失職に不満を強める政府支持派も、10日に首都郊外で大規模集会を開く計画だ。政府が目指す7月の総選挙を後押しする構えで、治安の悪化懸念も強まっている。
タクシン氏の影響力根絶を叫び、昨年10月末から首都での抗議集会を続ける「人民民主改革委員会(PDRC)」は9日、本拠とするバンコク中心部のルンピニ公園から旧市街にある首相府や国会に向けてデモ行進を開始。治安当局によると約2万人が参加した。
政府の治安対策本部前では、敷地内に入ろうとしたデモ隊に警官隊が催涙弾を放って阻止。医療当局によるとデモ隊側に6人の負傷者が出た。デモ隊の一部はテレビ局5社を包囲し、政府広報を放送しないよう求めた。
タイでは政府高官人事を巡る違憲判決により、インラック前首相が既に失職。ただタクシン派政権自体は存続し、判決に連座しなかったニワットタムロン副首相兼商業相が首相代行に就いた。7月20日の選挙実施と政権維持を目指している。
これに対し反政府派は、選挙では勝ち目が薄いことを踏まえ、任命首相による暫定政権下で選挙の前に政治改革を進めるべきだと主張する。PDRCを率いるステープ元副首相はこれまでインラック前首相の対話呼びかけを拒んできたが、9日の演説で「ニワットタムロン氏と平和的に対話し、政権返上を求める」と硬軟取り混ぜた戦略への変更を示唆した。
一方、9日には上院で空席となっている議長を投票で選ぶための調整が始まった。タイ憲法は首相を下院議員から選ぶと規定するが、2月の総選挙が無効となり、下院は昨年12月から解散したまま。仮に今の選挙管理内閣が退陣した場合、新首相は上院議長が任命するため、今後の政局でカギを握る存在となり得る。
政府によるコメの高値買い上げ政策を巡り、8日にインラック前首相の告発を決めた国家汚職追放委員会(NACC)は、商業相として同政策に関与したニワットタムロン氏らについても近く告発の是非を判断する見通しだ。告発した場合、弾劾決議やその後の首相任命で上院議長の影響力は大きいため、タクシン派と反タクシン派はそれぞれに近い議員を議長に選出したい考えだ。
デモや司法、上院を通じてタクシン派政権を追い込む動きに対し、「赤シャツ隊」で知られるタクシン派の政治団体、反独裁民主統一戦線(UDD)は強く反発。PDRCに対抗して10日にバンコク西郊外で大規模集会を開く予定で、インラック氏にも参加を求める。PDRCの動き次第ではバンコク中心部でもデモをすることも示唆。両派が衝突する恐れもある。