福島原発事故、「大人のがん増加リスクない」
国連科学委
【ジュネーブ=原克彦】東京電力福島第1原子力発電所の事故による放射線の影響を調査していた国連の科学委員会は2日、「大人のがんの増加は予想していない」とする報告書を発表した。一方、児童は理論上はリスクが高まるものの、被曝(ひばく)線量がはっきりしないため判断を避けた。動物や植物は、汚染水が放出された領域周辺を除けば「深刻な影響は観測できない」と結論づけた。
科学委は避難区域やその他の福島県について大人と児童の被曝量の推定値を算出。避難区域の飯舘村などでは事故後1年の実効線量が大人で最大9.3ミリシーベルト、1歳児で同13ミリシーベルトになるとした。避難区域外の福島県では大人で最大4.3ミリシーベルトだった。健康への悪影響は100ミリシーベルト未満ではないとされる。
避難区域内では1歳児の甲状腺の吸収線量が最大で年83ミリグレイに上り、理論上はがん増加の危険性が高まる。ただ、推定値のベースとなるデータが実際の被曝線量より最大5倍も大きい可能性を指摘し、「結論づけるには不十分だった」とした。
世界保健機関(WHO)などのデータをもとに、80人以上の科学者が原発事故の影響を評価する報告書を作成。昨年6月の中間発表では、事故後の迅速な避難や食品規制で住民らが被曝した放射線量を「10分の1に減らせた」と分析していた。
福島第1原発の事故ではWHOも2013年2月に、がんの増加が確認される可能性は低いとする報告書をまとめている。また、同年10月には事故に伴う除染の状況を調べた国際原子力機関(IAEA)の専門家チームが、年間追加被曝線量を1ミリシーベルトとする当時の政府の長期目標について「必ずしも達成する必要はない」と指摘していた。
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