富士通・京セラ、「ガラパゴス」スマホで世界進撃
国内スマートフォン(スマホ)メーカーが、突出した独自性で世界市場へ再挑戦しようとしている。スマホの覇権争いは、画面やカメラなどの性能を引き上げた高性能機種と、100ドル以下の低価格品に大きく二分化しつつある。そこで富士通と京セラは低価格品に見切りを付け、高性能機種に徹底的に注力しようとかじを切った。米アップルや韓国サムスン電子など覇権を握る列強と差異化を図るには、ひと味もふた味も違う日本メーカーならではのこだわりの味付けが必要だ。
従来型携帯電話では一定の存在感を見せた国内勢だったが、スマホ時代に入りすっかり存在感が薄くなった。国内市場で磨かれた「ガラパゴス」な技術を携えて最後の勝負に打って出たその先に勝ち目はあるのか。各社の担当者に話を聞いた。
「らくらくスマホ」が仏でヒット、富士通の挑戦
――フランスの携帯電話会社オレンジに対し、シニア向けの「らくらくスマホ」を供給した。市場は獲得できたのか。
「取扱店舗が全仏に広がり、徐々に浸透している。年間で数万台の販売目標に向け順調に推移している。タッチパネルの操作感やマイクなどシニアでも使いやすい性能を追求し、かつシニア向けの情報配信や交流サイト(SNS)といったサービスとの融合が評価されている」
「オレンジの他にもシニア層を取り込もうと検討している通信会社は多い。らくらくスマホの取り扱いについての問い合わせは数十社からあり、販売拡大に向け交渉しているのが現状。海外でシニアの大半は電話とメールだけのシンプルな端末を利用している。価格は割高だが、使い勝手の良さやサービスの付加価値を売り込む」
――なぜ海外事業ではシニア向けに特化するのか。
「各国で人口構成は着実に変化している。IT(情報技術)に親しんでいる層がこれからシニアになっていく。シニアになれば視力や指先の感覚が鈍化する。それを補うスマホであれば需要はある。スペックで競争するだけの高性能スマホでは、ブランド力がなければ太刀打ちできない」
「富士通の強みは何であるかを見極めたうえでシニアに特化することを決めた。似たり寄ったりのスマホでは競争で埋没してしまう。我々はシニアに対するノウハウを持っている。もちろんシニア向けでも競合はいる。端末とその周辺サービス、使いやすさを向上させていく」
――2月にスペインで開かれた世界最大の携帯電話見本市「モバイル・ワールド・コングレス」では、触感を再現するタブレット(多機能携帯端末)も展示した。
「画面にふれてざらざらやつるつるした感触を再現できることが、来場者には分かりやすく感じてもらえたようだ。会場で順番待ちが出るほど興味を持ってもらった。すぐに(触感の再現機能を)スマホに搭載できるわけではないが、現実世界を再現することを目的に技術を開発した。自社だけでなく他社とも組んで、活用できる場面を広げたい」
京セラは米軍公認の高い耐衝撃性で独自路線
――防水性や耐衝撃性を前面に押し出して、京セラブランドのスマホを訴求している。
「米国や日本で販売するフラッグシップ『トルク』は、米国国防総省の規格に準拠した高度な耐衝撃性能が好評だ。様々な通信会社から注目を集めている。建築現場や物流業者、漁業や農業といった具合に利用場面が広がると期待している」
「農業の効率化のためにセンサーを活用する場合、そのデータを現場で安心して確認しやすい頑丈なスマホがなんといっても役立つ。機器間通信(M2M)などの普及で、データをアウトドアで確認する需要は今後も増える。端末を落として壊した経験がある人は多く、業務用では頑丈さという特長が受け入れられる分野は多い」
――頑丈さに注力したのはなぜか。
「アップルやサムスン電子など大手同士の競争が激しい中で、生き残りを考えて選択した。個人向けに防水性や耐衝撃性の需要があることがわかり、開発を進めてきた。それを進化させて(建築現場などに役立つ)最上位機種を開発した」
「基幹半導体やカメラなど部品の性能で競争するだけでは、安価かつ大量に生産する中国勢にのみ込まれてしまう。部品を買ってきただけではできない、擦り合わせで初めて作り込めるような性能で差別化しないといけない。頑丈さに対するニーズは各国でそれほど大きくはないかもしれないが、確実に存在する」
――ただ防水機能は大手メーカーも採用し珍しくなくなりつつある。
「機能面で他社が追いついてくる可能性はもちろんあるが、使い勝手にこだわれば差別化できる。利用者の拡大で、評価されている点と改善要望がある点がわかってきた。それを改善していきたい」
「個人向けの高性能機種であれば、半導体の進化などに合わせて1年ごとに新機種を発売しなければならない。特化した性能をもつトルクのような機種なら、頻繁に新機種を出す必要はないだろう。使い勝手や性能を進化させた新機種を適宜出していく」
取材を終えて
年間10億台を超える世界のスマホ市場で、日本メーカーの存在感は正直薄い。スマホを世界で展開するソニーですらシェアは数%とみられ、上位5社に食い込むのもままならない。数量面ではアップルやサムスンにはもうかなわないとみて、独自性で勝負を試みる国内勢。ただアップルなども、国内勢が開発した技術にニーズがあると見れば、似たものをすかさず盛り込んでくる可能性は高い。独自性で競争を優位に運べる今のうちに、いかに素早く世界各国で需要を掘り起こせるか。ニッチ市場を狙う日本のスマホメーカーに残された時間は多くない。
(企業報道部 川名如広)