エジプト大統領選、モルシ氏勝利確実 初のイスラム原理主義系
【カイロ=押野真也】17日に終えたエジプト大統領選挙の決選投票で、イスラム原理主義系のムハンマド・モルシ氏(60)の勝利が18日、確実になった。原理主義系の大統領は初めてで、実権を握る軍との対立は必至だ。ただ、現時点でエジプトに憲法はなく、原理主義勢力の影響力拡大を恐れる軍は大統領権限を限定するよう画策。軍が権限を維持し続ければ民主化が停滞しかねない。
選挙管理委員会による正式な選挙結果は21日に発表の予定だが、現地の主要メディアが選挙管理委員会の集計結果を18日に報じた。獲得票数はモルシ氏が53%、対立候補のシャフィク元首相(70)が47%だったもよう。モルシ氏は同日、「私はすべてのエジプト人を代表する大統領になる」などと勝利を宣言した。
モルシ氏は原理主義勢力「ムスリム同胞団」傘下の最大政党「自由公正党」党首。エジプト国民の中には原理主義を嫌う国民も多いが、シャフィク氏はムバラク政権下で閣僚や首相を歴任。独裁政権を支えた同氏が大統領に就任すれば民主化に逆行すると判断した有権者が多かったようだ。
◆大統領権限は限定か
ただ、モルシ氏が大統領に就任しても、どの程度の権限を持つか決まっていない。大統領の権限を定める新憲法の起草作業が停滞しているためだ。実権を握る軍最高評議会は近く、憲法起草委員会に対し、中断している起草作業を再開するよう命令する見通しだ。
起草作業で焦点となるのは大統領が持つ権限の扱いだ。モルシ氏が大統領に就任することが確実になったことから、評議会が持つ実権の多くは大統領には移譲せず、大統領を象徴的な存在にとどめたい考えだ。
評議会幹部のシャヒーン氏は18日、カイロで記者会見し、「今月末に新大統領に権限を移譲する」と述べる一方、軍の指揮権や交戦権発動などの軍事関連や国家予算にかかわる権限は移譲しないとも明言。現時点では外交権など限られた権限の移譲にとどまりそうだ。
今後の起草作業で、大統領の権限を巡って議論が紛糾すれば、再び起草作業が暗礁に乗り上げる可能性がある。大統領への大幅な権限移譲を求める同胞団と軍との間で対立が激化しそうだ。
すでに、軍は同胞団との対立を見据え、準備を進めている。13日には法務省が軍と情報機関に対して民間人を拘束できる権限を与えた。この決定は、評議会に不満を持つ同胞団が大規模なデモなどを主導しないように評議会側が強くけん制したものと受け止められている。
◆行政・立法権は軍に
これ以外にも、同胞団系議員が多数派を占める人民議会(下院、国会に相当)に対し、評議会のタンタウィ議長が解散を指示するなど、「民主化に逆行する動き」(同胞団幹部)を進めている。現在、議会の前には治安部隊が配置され、議員は立ち入れない状態だ。
議会の解散を受け、立法権は評議会に移管されている。今後、再選挙を実施する見通しだが、選挙日程について評議会幹部は18日、「4カ月以上先で、年内の早い時期」とコメント。当面は議会が存在せず、行政権と立法権は評議会が持つことになる。
民主国家では、政治権力の多くは民意で選ばれた首相や大統領が持つ。軍が権力に固執すればエジプトの民主化は進まないばかりか、昨年の反体制運動を支持した若者たちの不満が高まり、混乱が広がる可能性がある。