競争促し供給力高める電力改革に
電力不足の長期化が懸念されている。原子力発電への依存度の低下が見込まれ、自然エネルギーがすぐに主役になるのも難しいとみられるからだ。
最優先の課題は電力市場に多様な企業の参入を促し、競争を通じて供給力を高めることだ。経済産業省の専門委員会は7月上旬に電力改革の原案をまとめる。消費者が電気を安心して使え、新たな電力ビジネスで経済活性化にもつなげる道筋を示してほしい。
自由化で参入を増やせ
経産省は家庭向けを含めた電力の小売りを2014年度にも全面的に自由化する方針だ。いまは家庭や小規模な店舗は自分の地域の電力会社からしか電気を買えない。その規制を撤廃し、既存の電力会社以外の「新電力」と呼ばれる企業とも契約できるようにする。
電力会社は安定供給の義務と引き換えに地域独占が認められてきた。だが、東京電力などは東日本大震災後の電力危機でその義務を果たせず、料金値上げをめぐって消費者の不信を買っている。また情報技術を使って需給を効率的に管理する技術が進み、既存の電力会社でなくても電気を配れる。
これらを考えれば自由化は時代の要請であり、当然だ。もともと日本の電気料金は国際的に割高だった。さらに料金が上がり、供給不安が重なって産業や雇用が空洞化するのを防ぐためにも、自由化による競争促進は欠かせない。
自由化すると、コストが高くつく過疎地や離島で電気を配れなくなるとの懸念はある。だが通信料金と同じように、全国の利用者の電気料金に少額の付加金を上乗せし、設備の維持に充てるなどして供給を保つ方法はあるだろう。
むしろ重要なのは、多様な手段で発電する企業ができるだけ多く参入する仕組みづくりだ。自然エネルギーの全量買い取り制度が7月に始まり、太陽光や地熱などの発電に乗り出す企業が相次いでいる。電力不足の自衛策として自家発電を増強する企業も多い。
これらの企業が送配電網に接続しやすくする必要がある。それには、送配電網を借りるときに支払う「託送料」の引き下げが不可欠だ。日本の託送料は欧米に比べて高く、コストの根拠も曖昧だ。電力会社が人件費や資材調達費を圧縮するなどの経営努力をし、料金を下げる余地は大きい。
取引市場の活性化も欠かせない。いまも卸電力取引所があり、新電力の多くがそこで電気を買っているが、売買量は電力販売全体の1%に満たない。取引所に売りに出されるのが、自家発電で余った分など日々変動して不安定な電力に限られるからだ。
公営企業などがもつ水力発電所は安定した発電源だが、その電気は既存の電力会社が独占的に購入してきた。対等な競争環境を整えるには、これらの電気を取引所に売りに出させ、新電力が買えるようにすべきだ。取引が活発になるまでの時限措置とすればよい。
広域で電気を融通できる体制づくりも急ぎたい。自然エネルギーを目いっぱい導入するには、風力や地熱に恵まれた北海道、九州と大消費地を結ぶ送電網が要る。災害などに備え、東日本50ヘルツ、西日本60ヘルツと異なる周波数を変換する設備の増強も急務だ。
発送電分離は中長期で
広域送電網の整備は数千億円以上の費用がかかり、電力会社が地域ごとに分かれる体制では進まない。整備や公平な運用を監視する中立的な機関を設けるべきだ。新電力や新規事業者が送電網を「公共財」として利用できる体制にするならば、整備費の一部を国が負担してもよいのではないか。
経産省は既存の電力会社を持ち株会社にし、発電と送電部門を分離する案を検討しているが、これには課題が多い。10社がそれぞれ送電会社を持つのか、いくつかに統合するのか。その場合、経営や資本をどうするのか。国土全体の送電網を再編するには、大きな設計図を描く必要がある。
電力改革は段階的に進め、まずは新規参入を増やして供給力を高めることを目標にすべきだ。発送電分離などは、供給不安を解消できた後の課題と位置づけ、じっくりと検討したらどうか。
電力は国民生活や産業を支える基盤だ。拙速な改革により供給が滞ることだけは避けなければならない。政府は順序立てて改革を進める工程表を示してほしい。