ガスタービンに春到来の予感
天然ガスを使う発電設備、ガスタービンに追い風が吹いてきた。米国で「シェールガス」と呼ばれる新型の天然ガスの生産が本格化。ガス価格が下落して発電コストの競争力が高まっているためだ。オバマ政権が力を入れる風力など再生可能エネルギーの普及も、実はガスタービンに有利に働く。「原子力ルネサンス」ともてはやされた原子力発電所の新設計画が軒並み遅れているのとは対照的だ。
1月。「ガスタービンの時代」を予感させる受注が米国であった。
三菱重工業が米電力大手ドミニオンの傘下企業、バージニア・エレクトリック・アンド・パワー(VEPCO)から、ガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)と呼ばれる設備を受注したのだ。
GTCCはガスタービンで発電してから、その排熱で蒸気をつくり、蒸気タービンを回してさらに発電する高効率の発電設備。ガスタービン3基、蒸気タービン1基、発電機で構成し、出力は130万キロワットと、大型原発1基に相当する規模となる。
三菱重工は昨年5月、同じドミニオンから原発設備を受注している。出力170万キロワット級の加圧水型軽水炉(PWR)で、ノースアナ発電所(バージニア州)3号機向けに建設する計画だが、こちらは「計画が2年遅れている」(三菱重工)。つまり、ドミニオンは原発計画を遅らせ、ガス炊き火力発電を優先する戦略に転換したわけだ。
なぜか。背景にはシェールガスの登場でガス価格が下落したことが大きい。米国の天然ガス先物価格は100万BTU(英国熱量単位)あたり4ドル弱と、08年7月の3分の1まで下がった。これでガスを使った発電のコスト競争力が一気に高まった。
シェールガスは米国で100年分に相当する埋蔵量があるとされ、資源メジャーや商社による投資が活発だ。当面は安値圏で推移する可能性が高い。三菱重工の白岩良浩・原動機輸出部長は「米国の電力会社は今後のガス価格が7~8ドル程度まで上昇すると堅めに見ているが、高効率のガスタービンならそれくらいの相場でも十分に競争力がある」と語る。
設備投資の安さも魅力だ。受注額は明らかにしていないが、170万キロワットの原発の受注額が数千億円なのに対し、出力がさほど変わらないGTCCは数百億円。1桁の違いがある。規制電力のドミニオンは建設費用を電力料金に上乗せできるとはいえ、原発の投資負担が重いのは事実だ。工期も短い。GTCCは2014年末には稼働を開始できるが、原発は建設に7年はかかる。ドミニオンはさらに数基のGTCCの建設を計画しており、三菱重工は追加受注に期待を膨らませる。
意外なようだが、風車や太陽光など再生エネルギーの普及もガスタービンには追い風だ。風車や太陽光は天気任せ。気象変化によって出力が変動し、電力系統を不安定にする。電力業界では「しわ」と呼ばれる現象だ。再生エネルギーに出力を自在に調整できるガスタービンを組み合わせ、しわを取って電力系統を安定させる新たなニーズも高まっている。出力調整が難しい原発にはできない芸当だ。
こうした「しわ取り」用途に適したガスタービンに力を入れているのが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)だ。スイッチを入れればすぐに立ち上がり、出力調整も自在な機動力を武器に、高効率・大出力路線の三菱重工とは違った市場開拓を着々と進めている。
米国では老朽化した石炭火力発電所の建て替えが課題になっているが、二酸化炭素(CO2)の排出を抑えつつ、低コストで発電できる発電手段としては、ガスタービンを上回る解決策が見当たらない。
石炭火力もCO2の排出を抑えた「クリーンコール」技術が登場している。埋蔵量が豊富な石炭をガス化してから燃やす石炭ガス化複合発電(IGCC)は有望技術だが、現状では設備の価格が高すぎてペイしない。CO2を地下に封じ込める回収・炭素貯留(CCS)もコスト面に課題が残る。
米国は金融危機の影響で電力需要が伸び悩んでおり、足元の受注環境は良いとはいえない。だが、米国景気の回復が本格化し、発電設備への投資が戻ってくれば、ガスタービンの商談が活発になりそうだ。
(産業部 鈴木壮太郎)
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