超電導直流送電、実用化へ産学が結集 実験設備が始動
愛知県春日井市の中部大学に特殊な実験設備が完成し2月中旬、運転を開始した。「超電導直流送電」という電気を効率よく運ぶ新技術の実用化を目指す世界初の本格的な研究拠点だ。実験には企業も参加し、超電導材料を用いた送電ケーブルなど様々な革新技術の性能を試す。実用化に成功すれば、工場やオフィスの電力消費量を4割も減らせるという。
運転を開始したのは「超伝導直流送電実証実験装置―2(CASER-2)」。3月2日の披露会には大手電力や建設、電機なども含め関係者140人ほどが参集した。企業が注目するCASER-2は、発電した電気を直流に変換して送電ケーブルで送る実物大のシステムを組み込んであるのが特徴だ。
国内では、原子力や火力、水力といった発電所で作り出す電気は交流。一方、オフィスや家庭、工場などで使う電化製品やコンピューター、生産設備の大半は直流の電気で動いている。現状では発電所の電気を交流のまま送電し、オフィスや家庭で直流に変えて使っている。
この「交流送電」には問題がある。交流のままで送電すると電気が熱となってかなり失われてしまうのだ。発電した電気を直流に変えて送電する直流送電ならば、計算上はこうしたエネルギー損失を抑えられる。中部大のCASER-2は直流送電のための様々な新技術を結集した。
要となる技術は超電導ケーブル。JFEスチールが開発した保温性の高い鋼管の中に、住友電気工業製のビスマス系高温超電導ケーブルを導入した。このほか、アイシン精機の装置で窒素をセ氏零下196度に冷やして管内を循環させる。
実験を指揮するのは中部大の山口作太郎教授。2001年に核融合科学研究所から中部大に移籍。以来、研究を続けてきた。
CASER-2の総延長は200メートル。実際の送電ケーブルは数百キロメートルにも及ぶのでかなり短いが、「様々な用途を検討し、近距離を想定した実験から始めることにした」と山口教授は説明する。長大な既存の送電ケーブルは高い信頼性を確立済み。直流送電に切り替えることで電力消費量を減らせるとしても、送電インフラの見直しは現実的に難しい。
そこで山口教授らが目指すのは電気の需要地に近い変電所で直流に切り替えて、200メートル程度離れたオフィスや工場に送電すること。例えば、コンピューターがずらりと並ぶ企業のデータセンターが超電導直流送電を導入すれば、変電所からセンターの敷地までと敷地内の主要配線を超電導ケーブルなどに置き換える。これによって、送電ロスを減らせるほか、排熱が減るのでエアコンの使用が減り、トータルで4割ほど消費電力量を削減できるという。山口教授らは2年後にも工場やデータセンターへの導入を目指している。
(科学技術部記者 黒川卓)