団塊退職でも若年失業の怪 企業、新卒より即戦力
戦後まもない1947~49年に生まれた団塊世代が65歳に差し掛かり、労働市場の表舞台から姿を消しつつある。本来なら労働力不足に陥ってもおかしくない状況だが、若年失業率の改善はごく緩やかで、企業にも若者の採用を急ぐ機運は乏しい。若者に出番が回らないのはなぜか。長引く景気低迷だけでなく、企業の即戦力志向や若者の技能・技術の低下といった要因も見え隠れする。
■8万人内定なし
「数十社受けたけど内定はもらえなかった。早く就職を決めたい」。3月末に大学を卒業した男性(22)はつぶやく。若者の就職を支援する「東京新卒応援ハローワーク」(東京・新宿)。専門の相談員が若者と一対一で向き合い、時間をかけてアドバイスする。
支援の対象は現役の大学生や専門学校生、既卒者。利用登録した約4000人のうち7割が既卒者だ。卒業後に大学の就職支援が受けられず、足を運ぶ人が多い。
今年3月卒業の大学生の就職内定率は80.5%(2月1日時点)で、過去3番目の低さ。今年の大卒の就職希望者約40万人のうち、約8万人が内定を得られなかった計算だ。2011年の15~24歳の完全失業率は8.2%で、全体の4.6%を大きく上回っている。
これまでは団塊世代などの中高年が職場に居続けていることが、若者の雇用機会を奪っているといわれてきた。だが、その団塊世代もようやく職場を空けつつある。
17日発表の総務省の推計人口によると、昨年10月1日時点の15~64歳の生産年齢人口は8134万人。過去5年で240万人近く減った。さらに今年からは団塊世代の700万人が順に65歳以上になっていく。国立社会保障・人口問題研究所は30年には生産年齢人口は6773万人まで減ると推計している。
では、若者の雇用はこれから増えるのだろうか。そう簡単に「増える」と言い切れないところに問題の根深さがある。
若者に出番が回ってこない第1の理由は、企業側にある。海外展開をにらむ製造業を中心に、新卒者よりも就職経験のある即戦力を求める機運が高まっているためだ。
ホンダは今年度、前年度の20倍にあたる160人の中途採用を計画。東芝は中途採用を前年に比べ4倍強に増やす。日本経済新聞社の採用計画調査によると、今年度の大手企業などの中途採用計画数は昨年度実績比で12.3%増えた。
企業が新興国などに成長の場を移していることも影響している。日立製作所は13年春の採用の重点を国内から海外にシフト。国内の大卒採用を150人減らすが、同社はその理由について「グローバル化に伴う変動」と説明する。
製造業は過去5年間で100万人も就業者数を減らした。工場の海外移転が進み、国内にわずかに残った工場でも省力化が進行。研究開発部門が日本にとどまったとしても、高度な能力を求められる職場に新卒の社員が入り込む余地は限られている。
若者を求めている職場もある。この5年間で就業者数を100万人増やした医療・福祉部門。厚生労働省の調査によると、介護施設の半数以上が職員不足を感じている。「利用者の多い都市部で特にヘルパーなど若手の労働力が足りない」(在宅介護大手のセントケア・ホールディングの担当者)との声がある。
■厳しい職場敬遠
理由は若者が低賃金や厳しい仕事内容を嫌い、こうした職に就きたがらないこと。求職者と求人企業の条件が合わない雇用のミスマッチが広がる。若者が就労のチャンスをみすみす逃すなかで、代わりに医療・介護の現場では高齢者や女性の働き手が増えつつある。
若者の失業状態は長期化の傾向がある。労働力調査によると、1年以上仕事のない長期失業者のうち、25~34歳の割合が26%と最も多い。経験やスキルがない若者が増えており、いったん就労の機会を逃すとますます就労が難しくなる悪循環に陥っている。
「政府は職業訓練などで人材の能力を高めていく施策を打ち出していくべきだ」とは日本総合研究所の湯元健治理事。人口減のなかで若い働き手の育成がうまくいかなければ、国全体の生産性や活力の低下につながりかねない。若者を長期的に日本の成長の原動力に変える取り組みが必要になっている。
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