欧州危機、重大な岐路に ギリシャ再選挙へ
ギリシャの再選挙が確実になったことで、緊縮策に苦しむギリシャと巨額の支援を重ねる欧州が続けてきた駆け引きは最終章に入る。ギリシャが再び改革を拒めば、ユーロ圏に残るのは一段と難しくなる。欧州がギリシャを見捨てれば、統合の歴史には深い傷がつく。ギリシャに始まった3年越しの欧州債務危機は重大な岐路を迎える。
ギリシャ国民は絶望の淵にある。長年の放漫財政から国の信用が失墜し、欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)の資金でなんとか延命する。引き換えに国内総生産(GDP)の20%が一気に減る緊縮財政や構造改革を強いられる。しかも、将来の展望は開けていない。
二大政党が過半数を失った6日の議会選挙で、ギリシャ国民は2つのメッセージを発した。1つは急激な緊縮財政が我慢の限界に来たということ。もうひとつは、腐敗体質を温存しながら40年近く単独政権を代わる代わる担った全ギリシャ社会主義運動と新民主主義党の左右両派の大政党に対する怒りだ。
「どちらに入れても変わりはない。政治家はみんな嘘つきだ」。選挙前にアテネ市内で聞いた有権者の声は、この一言に集約される。有権者は大政党に愛想を尽かし、2位になった急進左派連合や、議席を獲得した極右政党に票を回した。
今回の再選挙は意味が変わる。2010年秋にパパンドレウ前首相が言いかけ、欧州首脳に説得されて諦めた国民投票の騒動がよみがえる。事実上の主題は「ユーロ体制に残るか否か」。有権者にとっては究極の選択となる。
6日の選挙後の世論調査では、緊縮策の撤回を主張する急進左派連合が再選挙で1位に躍り出る勢い。「改革策は正当性を失った」という主張が説得力を残すが、ユーロ圏には残留すべきだとの考えだ。ギリシャ離脱による損失を恐れ、欧州側がいずれ寄ってくるだろうと読む。
だがドイツを筆頭に、支援国側も厳しい態度を崩さない。「それもギリシャ国民の判断だ」。ドイツ連邦銀行のバイトマン総裁は、もし緊縮策をギリシャが拒否すれば支援は続けられないとの立場を強調する。
「ギリシャがユーロ圏に残ることが我々の揺るぎない願いだ。可能なことは何でもする」。14日のユーロ圏財務相会合の後、議長のユンケル・ルクセンブルク首相はこう強調し、市場で流れるギリシャ離脱論を「プロパガンダ(政治的宣伝)だ」と断じた。だが支援国側の厳しい世論もあり、緊縮策の大幅な後退は起こりえないだろう。
欧州が金融安全網を徐々に強化し、財政規律の回復で歩調を合わせたことで、ギリシャの挫折に対する一定の備えができたということも欧州側の厳しい態度の背景にある。09年以来の債務危機はギリシャと欧州の間での譲り合いの歩みだったが、その余地はなくなった。
ギリシャが挫折すれば金融市場には次の危機国を探る臆測が再燃しかねない。ギリシャ国民も、8割が望むユーロ圏残留を断念するような判断を示すのか。
EU側も支援と規律のはざまで深い葛藤に直面する。中東、ロシアなど他の勢力と近いギリシャを迎え入れたのは、欧州にとって地政学的にも重要な国であるという判断もあったはずだ。そのギリシャを欧州が見捨てるのか。
6月中旬の再選挙はギリシャと欧州の双方に、欧州統合を進める覚悟を問う機会となる。
(欧州総局編集委員 菅野幹雄)