インテル新CPU「アイビーブリッジ」を試す(前編)
新技術で消費電力削減
フリーライター 竹内 亮介
インテルは4月24日、新しいCPU(中央演算処理装置)を発表した。第3世代の「Core iシリーズ」で、コードネーム「Ivy Bridge(アイビーブリッジ)」と呼ばれていた製品だ。現行の第2世代Core iシリーズ、コードネーム「Sandy Bridge(サンデーブリッジ)」に比べ、回路配線幅の縮小による消費電力の低下、内蔵するグラフィックス機能の強化、高速インターフェースの追化など多岐にわたって改善しているという。
このアイビーブリッジの実力を2回にわたって検証する。今回は新CPUの改善点を中心にまとめ、次回は合わせて登場した新チップセットの機能紹介、およびサンデーブリッジとアイビーブリッジの性能を比較する。
4コアが中心、メモリー容量で2モデルに
アイビーブリッジは、インテルが約1年4カ月ぶりに一般市場向けに投入する製品で、最終的には現行のサンデーブリッジをすべて置き換える予定という。なおブランド名は「Core iシリーズ」で変更はない。
今回発表された製品は、主演算基が4基(4コア)でキャッシュメモリーの容量が8メガバイトと大きい高性能パソコン向けの「Core i7」と、同じく4コアだがキャッシュメモリーの容量が6メガバイトと少ない普及モデル向けの「Core i5」の2つ。主なラインアップと実勢価格は次ページの表にまとめた。
最大の特徴は、現行のサンデーブリッジの基本設計はそのままに、内部の配線幅を32ナノ(ナノは10億分の1)メートルから22ナノにした点だ。配線幅を狭くすると消費電力が低下するほか、高い周波数で動作する製品が作りやすくなる。
さらに今回、新技術「トライゲートトランジスタ」も採用した。CPU内部のトランジスタに3次元構造を取り込んだもので、インテルが2002年に発表した技術である。半導体メーカーでも同技術を取り込んで生産を開始したのはインテルが世界で初めて。こうした取り組みにより、消費電力を大幅に削減できたという。
実際にサンデーブリッジの「Core i7-2700K(周波数3.5ギガヘルツ)とアイビーブリッジの「Core i7-3770K」(同3.5ギガヘルツ)を自作パソコン(8ギガのメモリー、128ギガの半導体ディスク)に組み込んで比較してみた。すると、CPUを変えただけで約18Wほど消費電力が低下した。
消費電力が低下すればCPUの発熱も下がる。発熱が下がれば冷却装置を簡略化できるため、よりコンパクトな筐体のパソコンにも高性能なCPUを組み込めるようになるだろう。冷却ファンの風量が少なくても十分に冷却できるようになるため、パソコンの動作音も小さくなり、静かに作業が行えるようになる。
「DirectX11」に対応、「命令ユニット」も増加
もう一つの改善点は内蔵グラフィックスだ。サンデーブリッジの内蔵グラフィックスは、マイクロソフトの描画処理用命令セット「DirectX」では「10.1」までの対応だった。しかしアイビーブリッジでは最新の「11」に対応し、より美しく描画できるようになった。描画を担当する「命令ユニット」も上位モデルではサンデーブリッジが12であるのに対し、アイビーブリッジでは16に増えており、描画速度も高速化している。
カプコンの対戦格闘ゲーム「ストリートファイター4」の動作状況を確認できるベンチマークテスト「ストリートファイター4ベンチマーク」を動作させたところ、実際に性能向上を確認できた。11秒間に何枚の画面を描画できるかを示す「AVERAGE」が「66.55」から「80.33」になった。
もちろん処理が非常に重い最新3Dゲームを楽しむにはまだまだ力不足ではあるが、比較的軽量なオンライン3Dゲームならビデオカードを追加しなくても十分楽しめるはずだ。
メモリーコントローラーの統合や、CPUの冷却が十分に行われているときに自動で周波数を引き上げる「ターボブースト」機能などは、サンデーブリッジから引き続きサポートしている。
またマザーボードに装着するソケットもサンデーブリッジと同じく「LGA1155」で、相互に互換性がある。このため、サンデーブリッジ対応のマザーボードにアイビーブリッジを搭載しても動作するし、その逆でも動作する。ノートパソコン用のマザーボードでも状況は同じなので、CPUだけを差し替えてパワーアップすることも可能になる。
夏モデルでは主に高級機種に搭載へ
現行のサンデーブリッジをベースにしたCPUには、低価格モデル向けで2コアの「Core i3」や「Pentium」もある。今回の発表には含まれていないが、こうした低価格CPUも6月から7月にかけて、アイビーブリッジをベースにしたCPUに切り替わる予定だ。そのため、普及価格帯から低価格帯は、2012年夏モデルでも引き続きサンデーブリッジをベースにしたCPUを搭載するだろう。
なお、アイビーブリッジとサンデーブリッジの見分け方は、サンデーブリッジでは「Core i7-2700K」など最後に付く番号が「2000番台」だが、アイビーブリッジでは「Core i7-3770K」など「3000番台」になる。
同じく3000番台が付くさらに上位の高性能CPUもあるが、ノートパソコン向けは存在せず、またデスクトップパソコン用でも一般ユーザー向けモデルにはまず搭載されないので、間違う心配はないはずだ。
(次回は5月6日に掲載予定)
1970年栃木県生まれ、茨城大学卒。毎日コミュニケーションズ、日経ホーム出版社、日経BP社などを経てフリーランスライターとして独立。モバイルノートパソコン、情報機器、デジタル家電を中心にIT製品・サービスを幅広く取材し、専門誌などに執筆している。
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