鳥インフル研究規制せず テロ懸念で論文公表は延期
【ジュネーブ=藤田剛】強毒性鳥インフルエンザウイルスに関する研究論文の公表の是非を討議していた世界保健機関(WHO)の緊急会合は17日、「全文を公表すべきだ」との勧告をまとめて閉幕した。ただ、生物テロに悪用される恐れがあるとの理由で一部削除を求めていた米政府に配慮し、WHOは研究施設の出入り制限などウイルスの安全管理を強化する国際基準を設ける方針。基準ができるまで、公表は延期するよう求めた。
会合には論文を執筆した研究者や米政府の専門家など22人が参加。勧告は全会一致で決まった。
論文執筆者で会合に出席した河岡義裕・東京大学医科学研究所教授は会合終了後の会見で「論文の情報が非常に重要であるとの合意が得られた」と語り、結果を評価した。ただ、1月下旬から停止している研究活動は当面再開せず、安全管理に関する国際基準の策定を待つ考えを示した。
WHOのケイジ・フクダ事務局長補は終了後の会見で、数カ月内に専門家会合を開き、安全管理の国際基準を策定する方針を示した。研究所に出入りする人を大幅に制限して盗難を防いだり、ウイルスが外部に漏れないよう施設を厳重に密閉したりすることなどが盛り込まれる見通し。WHOは各国政府に基準順守のための法整備を求める。
論文は、強毒性鳥インフルエンザ「H5N1」が哺乳類から哺乳類に感染するウイルスに変異する仕組みを動物実験で解明した内容。河岡教授のほか、オランダ・エラスムス医療センターのロン・フーシェ教授が、それぞれ個別に米英の科学誌へ投稿していた。
だが、米政府の科学諮問委員会が昨年12月、論文の全文掲載はテロへの悪用の恐れがあるとして一部の削除を要求。河岡教授らは、全文掲載はワクチンや治療薬の開発に役立ち新型インフルの世界的大流行(パンデミック)の防止につながると主張していた。
各国の研究者は1月下旬、研究の自主的停止を発表した。