「エアろくろ」ブームに乗れ バズワードはこう使う
インタビュー中のポーズ、ネットで話題浸透
最近、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)やパソコン上に「ろくろ」の文字が頻繁に登場している。両手を突き出し、本物のろくろを回すような姿の写真と共に。発端はネットに掲載されたインタビュー写真についてのつぶやき。面白がった人が我も我もと架空のろくろを回す「エアろくろ」の写真を投稿し始めた。その話題性を人材募集やキャンペーンに生かす企業も登場。単なるバズワード(はやり言葉)とは一言で片付けられない力を発揮している。
エアろくろの火付け役は、3月中旬にツイッターに投稿された1本のつぶやき。「なぜウェブ業界人は、インタビューの時、ろくろで粘土をこねるみたいな格好になっているの?」。このツイートがまたたく間に拡散し、ろくろを回す画像をまとめたサイトが次々と出現した。
話題が盛り上がって間もなくの3月18日、ツイッターにこんなつぶやきが掲載された。
「【募集】カヤックでは一緒にろくろを回してくれる人を募集しています」
書き込んだのはインターネット関連会社のカヤック(神奈川県鎌倉市)。記載されたURLをクリックすると中途採用のサイトに飛ぶ。そこに添付した画像は、エアろくろのポーズをとる柳沢大輔社長(38)。すぐにリツイート(他の利用者による投稿の引用)が繰り返された。
「求人は露出に比例してエントリーが増える。ともかく多くの人の目に触れることが大事」(柳沢社長)。カヤックとまったく関係のない「ろくろ」の文字を盛り込んだのには、そんな計算がある。同社は昨年に新卒を含め約80人が入社。今年も約100人を採用する予定だ。まず会社を知ってもらうため、バズワードを機敏に利用した。
「ろくろ回して話題になるくらいなら……」
3月22日、そんな文章で始まるブログを書いたのは、伊藤春香さん(26)。トレンダーズ(東京・渋谷)の美容クリニック専門のクーポン購入サイト「キレナビ」編集長だ。
同サイトで実施したプレゼントキャンペーン「日本女子美人化計画」をいかに周知させるか、同僚と話すうちに「ろくろ」に話が及び、すかさず採用。手の位置や角度を変え、最適ポーズを探りながらエアろくろに挑戦した。写真7枚をブログに掲載。「自然に回すのは、なかなか難しかった」が、そのかいあってかキャンペーン画面の訪問者数は100万を超えた。
ちなみに、エアろくろから本物のろくろ回しに引き込まれた人もいる。米アップル「iPhone」関連の情報サイトを運営するAppBank(鎌倉市)の村井智建社長(30)は、ネットの画像に触発されて、このほど仕事で訪れた沖縄で陶芸に挑戦。今では「1週間に1回はろくろを回したいくらい」と語る。
ブームに対応したアプリも登場した。クリエイテラ(東京・豊島)は3日、iPhone用に、エアろくろ写真の手元につぼやろくろの画像を合成できる「ろくろる」を公開。画像は10種以上あり、手の開き具合に合わせて縮小、回転させられる。
ネット上では同類のバズワードが現れては消える。これに便乗した際、「話題になるだけで、訴えたいことの本質が伝わらないリスクはある」(カヤックの柳沢社長)。ただ、利用の仕方次第では広告宣伝などにも生かせる。つぶやきを自社サイトへの誘導路にしたカヤックのように、伝えたい「本質」を示しながら、遊び心を刺激して情報を拡散させるメリハリが、バズワードを上手に活用するコツといえそうだ。(松本史)
[2012年4月8日付日経MJ]