座礁客船、救助の邦人「大きな衝撃、女性の悲鳴…」
船内アナウンス、当初は「発電機の故障」
【ローマ=共同】「部屋のテーブルの上のものが落ち、女性の叫び声が船内に響いていた」――。イタリア中部沖のジリオ島付近で地中海クルーズ中の豪華客船が座礁した事故。船に乗り合わせ救出された日本人乗客らは避難先のローマ市内のホテルで「船が傾き、真っすぐ立っていられない状態だった」などと脱出時の緊迫した状況を語った。証言からは船内がパニック状態に陥り、整然と避難誘導が行われなかった様子が浮かび上がる。
東京都の不動産鑑定士、国武久幸さん(51)は夕食を終え、妻と共に船室で休んでいた13日午後9時半(日本時間14日午前5時半)ごろ、どーんと船が大きな物にぶつかったような衝撃を感じた。テーブルの上の物が落ち、部屋の電気が消え、船がどんどん傾くのが分かった。廊下からは子どもの名前を呼ぶ女性の叫び声や悲鳴が聞こえた。
当初、船内アナウンスは「発電機の故障」と説明。しかし、午後10時半ごろに避難指示が出た。部屋にあった救命具を着け「階段を滑るように避難ボートのある階まで下りた」。
係員が避難ボートを海面に下ろすのに手間取る間に、船の床の傾きは30度くらいに達し「立っているのに力がいるほどだった」と話す。結局、ジリオ島から来た大型のボートに乗り込み、妻の手を握り締め、ようやく「助かった」と思ったという。
長野市から参加した60代の女性は夕食を終えてホールでマジックショーを見ていた時に事故が発生。当初は日本語の説明がなく、周りの人たちが避難し、救命具を身に着けているのを見ても「避難訓練が始まったのかと思った」という。
非常ベルが鳴ったため事故だと分かり、一緒にツアーに参加した友人と部屋に戻り、着替えて避難ボートのある階に行った。
しかし、乗客が多数おり、ボートに乗せてもらうまで1時間くらいかかった。ボートが岸に着いたときには拍手が起こった。初めてのクルーズ旅行が暗転、所持品もほとんど失ったが「今から考えればよく助かったと思う」と話した。
千葉県浦安市から娘と参加した別の女性によると、乗員の避難誘導は整然としていたという。映画「タイタニック」を思い出したというが、ボートを待っている間も島が近く明かりが見えたので「何とか泳げるのではないかと考え、命の危険はそれほど感じなかった」と話した。