摩擦の海、日中が神経戦 尖閣沖接触事件
沖縄県の尖閣諸島沖で中国の底引き網漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で、同庁第11管区海上保安本部石垣海上保安部は8日、漁船の中国人船長、ジャン・チーシォン容疑者(41)を公務執行妨害容疑で逮捕し、本格的な取り調べに入った。日中両政府は互いに抗議する一方で、収拾を探る駆け引きも続ける。この事件は経済、軍事両面で台頭する中国と周辺国の海洋権益を巡る摩擦の激化も浮き彫りにした。
「我が国の法律に基づいて厳正に対応していく」。菅直人首相は8日夜、首相官邸で強調した。政府内には「中国は民主党代表選の政治空白をついて日本を試している」との見方がある。海上保安庁によると最近、尖閣周辺の領海内で1日約70隻もの中国漁船の違法操業などを確認した例もある。船長逮捕の裏には、主権問題には毅然(きぜん)とした姿勢で臨むという政権の意思が見える。
ただ、那覇地裁への逮捕状請求は接触事故から約12時間後。長い空白の時間は、対中関係への影響も考慮し、政府内にためらいがあったこともうかがわせる。
「釈放しろ!」。8日、北京の日本大使館前では約40人が抗議行動をした。主催は尖閣諸島の中国領有を主張する「中国民間保釣連合会」。8月に抗議行動を計画した際は当局が認めなかったが、今回は許可したという。
中国外務省の胡正躍次官補は8日、丹羽宇一郎駐中国大使を呼び、船長の即時釈放などを要求した。丹羽大使は「国内法に基づき粛々と処理する」とし、両国間の駆け引きが続く。
これに関連し、中国の李克強副首相は同日、北京での米倉弘昌日本経団連会長ら日中経済協会代表団との会談で、事件には直接触れず「敏感な問題は適切に処理する必要がある」と述べた。
今回の事件では、けが人がなく、船に深刻な損傷もない。対中関係への配慮もあり、略式起訴による罰金刑などで早期決着するとの見方が強い。