成年後見制度、進まぬ普及 10年間で利用者17万人
認知症の高齢者らの財産管理などを手助けする「成年後見制度」がスタートして10年。10月2日からは横浜市で17カ国の法学者らが制度を話し合う「成年後見法世界会議」が開かれ、"長寿国"日本の運用に世界の目が注がれる。しかし、推計200万人とされる国内の認知症高齢者数に対し、利用件数は約17万件にとどまり、専門家は「必要な人に支援が届いていない。普及のための新たな仕組みが必要」と指摘する。
成年後見制度は2000年4月、介護サービスを行政の「措置」から「契約」へと移行する介護保険制度とともに、高齢社会を支える「車の両輪」として導入された。
最高裁によると、全国の家庭裁判所が後見人を選任する後見開始などを認めた件数は、00年度の約3500件から06年度の約3万件まで年々増加。その後は2万件台が続き、10年間の合計は約17万件だった。
筑波大法科大学院長の新井誠教授(民法)は「人口の1%程度が利用するのが世界の標準。日本は120万人前後のニーズがあるはずで、利用が少なすぎる」と懸念する。申し立て手続きの煩雑さや後見人不足も壁になっているという。
後見人に選ばれるのは約6割が子供などの親族。それ以外は司法書士や弁護士ら第三者だ。
厚生労働省は後見人の担い手を増やすため、子供のいない単身高齢者らを地域住民が「市民後見人」として支える仕組みを提案、推進費を来年度予算の概算要求に初めて盛り込んだ。今後、介護保険や財産管理の知識が求められる後見人をどう養成し、行政がバックアップするかが課題だ。
また新井教授によると、欧米では認知症患者に手術や点滴などをするかという医療行為の同意も、後見人がする国が多い。法務省は「後見人の権限は財産管理が中心。医療の同意は法に定めていない」としている。
新井教授は「多くの人の関心事である、老後の医療の選択をだれに託すのかも含め、議論を深める時だ。だれでも気軽に後見人を頼めるよう、行政の窓口や裁判所が連携して支えるネットワークも必要」と提案する。
世界会議は10月2~4日に横浜市西区のパシフィコ横浜で開く。参加登録は定員に達したため、締め切った。
▼成年後見制度 認知症や知的障害などで判断能力が十分でない成人を保護、支援する制度。2000年に禁治産、準禁治産制度に代わって導入された。財産管理や各種の契約時に損害を受けずに権利が守られるようにするのが狙い。家族らの申し立てを受けて家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見」と、判断能力があるうちに自分で選ぶ「任意後見」がある。〔共同〕