電気自動車時代の足音が近づいてきた
電気自動車(EV)シフトの動きが世界的に高まっている。日産自動車はEV「リーフ」の初のフルモデルチェンジを実施し、西川広人社長は「日産のコアになる車」と表明した。米国ではテスラが50万台という破格の予約を集めた「モデル3」の納車を始めた。
メーカーだけでなく各国政府もEVの普及に熱心だ。仏英両国は2040年までにガソリン車などの販売を禁止する「脱エンジン」の方針を打ち出した。中国やインド政府、あるいは米国でもカリフォルニアをはじめとする有力州がEVの普及を後押ししている。
以前のEVブームは尻すぼみに終わったが、今回は本物だろう。日本としてもここで競争に負けて、基幹産業の自動車を失うわけにはいかない。EV化の波を「脅威」ではなく、電池の部材や車の新素材、関連する電子部品など幅広い産業を浮揚させる「好機」ととらえ、変化を先取りしたい。
ただ、いたずらに慌てる必要はない。携帯端末の世界では、スマートフォンがいわゆる「ガラケー」に取って代わるのに10年もかからなかったが、車の動きはもっとゆっくりだろう。
米金融大手のゴールドマン・サックスは2040年時点でも世界の新車販売におけるEVの比率は32%にとどまり、エンジン車の45%を下回ると予測する。
電池の性能向上や量産体制の確立、さらにリチウムやコバルトなど電池に使用される金属資源の増産にはかなりの時間が必要になる。使用済み電池のリサイクル技術の確立も未解決の課題だ。
とはいえ変化の波は確実に押し寄せる。過去100年続いた「エンジンだけが車の動力源」だった時代が終わる衝撃は予想以上に大きいかもしれない。独自動車工業会などは「エンジンがなくなれば、ドイツ国内で60万人以上の雇用が影響を受ける」と試算した。
日本でも「脱エンジン」の加速で、一部の自動車部品メーカーなどが痛みを被る恐れはある。
こうした負の側面の一方で、EV化は電子部品や軽量な炭素繊維などの需要を広げるだろう。
EVは自動運転技術との相性がよく、機械が人の運転手をサポートすることで、交通事故が大幅に減る可能性もある。そして何より排ガスがゼロになるので、新興国を中心に大気汚染に苦しむ地域には朗報だ。EV時代の足音を、冷静に前向きに受け止めたい。
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