卵の丸さ、飛行能力で決まる? 鳥1400種から解明
インドネシアにいる鳥、セレベスツカツクリの卵は、普通よりかなり細長い楕円形で、ジャガイモそっくりに見えるかもしれない。だが、この鳥は決してのろまではない。ふ化して間もない頃から空を飛べる。(参考記事:「琥珀の中に恐竜時代のひな鳥 頭、翼、足、皮膚も保存」)なぜ鳥の卵はこのように種によって大きく異なるのか。科学者たちが長年にわたり不思議に思っていた謎を明らかにした研究結果が、2017年6月23日付けの科学誌「サイエンス」に発表された。
だが、米プリンストン大学の生態学者であるメアリー・ストッダード氏らの研究チームが目をつけたのは、広範囲な研究が行われていなかった点だった。
ストッダード氏は、「球形のフクロウの卵から、シギのとがった卵まで、鳥の卵の形がかなり多様に進化してきたことは、見過ごされてきたわけではありません」と話す。
そして最新の研究で、ストッダード氏らは意外な結論を明らかにした。卵の形は、鳥たちの飛行能力の発達に伴って進化した、というものだ。
生活史や巣は関係なし
研究チームはまず、卵の形を比較できるように規定する必要があった。そこで注目したのが、卵の一端がどれだけとがっているか(非対称性)と、どれだけ細長いか(楕円率)という2つの要素だった。
次いで1400種、5万個近い卵を記述する数式を立て、その形をグラフ上に配置していった。
論文によると、最も細長かったのがセレベスツカツクリ(Macrocephalon maleo)の卵。最もとがっていたのはアメリカヒバリシギ(Calidris minutilla)の卵だった。
続いて研究チームは、似たような形の卵を産む鳥の餌や巣、解剖学的構造に共通点があるのかどうか調べた。
そのなかには、鳥の飛行効率と移動能力を表す「ハンド・ウイング指数」もあった。加えて、出生地から別の場所へ渡りを行う能力も考慮した。
その結果、卵の形は産む数や環境要因、巣の特徴などと関係がない一方で、「ハンド・ウイング指数」が最も高い、つまり最も効率的に飛べる鳥は、卵の非対称性または楕円率が最も高いことがわかった。
「さまざまな形の卵があることについて、最もうまく説明できる要素が飛行能力だとわかり、私たちはショックを受けました」と、ストッダード氏は話している。
「これまでいくつもの説が出されてきましたが、こうした要因はあまり考えられてきませんでした」
流線形の体になったため?
今回の結果は、鳥がより高い飛行能力を獲得するように進化する中で、卵の形もそれに適応してきた可能性を示す。
特定の形と飛行能力の高さがなぜ相関するのか、ストッダード氏はわからないとしている。だが推測として、卵の形は、体が流線形になるほど細長かったり、とがった形になったりするのではないかと話した。
例えば、セレベスツカツクリは、高い飛行能力を得るよう進化し、その過程で卵も長い楕円形に進化した可能性がある。流線形の体は即座に飛び立つのに適している。
英ケンブリッジ大学の進化生物学者で、この論文を別の記事で紹介したクレア・スポッティスウッド氏は、「多様に進化した自然の説明として、今回の成果はとても有用な情報です」と評価する。
「新たな疑問が多く生まれるという点でも、刺激的です」
飛ばないペンギンの卵はなぜとがっている?
ストッダード氏らの説に基づけば、飛ばない鳥はいずれも丸くてとがっていない卵を産むという想定ができそうだ。例えば、ダチョウの卵は丸い。
ところがペンギンは、飛行能力の高い鳥に多いとがった卵を産む。ストッダード氏らの現時点での仮説は、「ペンギンは水中での力強い『飛行』に適応してきたからでは」というものだ。
「ペンギンたちは泳ぎの達人ですから、飛行能力の高い鳥において卵の形に影響したのと同じプロセスが、彼らにも働いているのかもしれません」
(文 Hannah Lang、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2017年6月27日付記事を再構成]
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