ノロウイルスにマスクは有効? クイズで学ぶ正しい策
冬になると、毎年猛威をふるうのがノロウイルスだ。マスクや手洗いは意味がない、ノロウイルスには抗体ができないので何回も感染する、などいろいろなウワサを聞くが、実際のところどうなのか? 2017年11月、北里大学北里生命科学研究所・大学院感染制御科学府ウイルス感染制御学教授の片山和彦さんが行ったクイズ形式の講演「ノロウイルス 研究の進展で見えてきた本当の姿」の内容をお届けしよう。
冬にノロウイルスが流行するのは、低温や乾燥に強く、冷蔵庫に入れた食べ物の上でも増殖できるから。ホント? ウソ?
(1)ホント (2)ウソ
【答えと解説】 「ウイルスと細菌は違います。ウイルスは生物の細胞の中でしか増殖できない。たとえ栄養を与えても、自分だけでは増えることができないのが細菌と違うところです」と片山さん。というわけで、正解は(2)ウソ。ノロウイルスは、低温や乾燥には強いものの、生き物の細胞の外で増殖することはできないのだ。
ノロウイルスがすみつくのは腸の中。酸に強いので胃酸に耐えて腸まで行って増殖し、激しい下痢や嘔吐(おうと)を引き起こす。感染者の便の中には、耳かき1杯くらいでも1億個以上のノロウイルスがいる。鼻や口から100~1000個のウイルスが体内に入ると感染するという。
感染経路は大きく3通りだ。
(1)食品から人へ(食中毒)。下水を通じてカキなどの二枚貝にノロウイルスがたまっていることがあり、これを生や加熱不十分で食べることで感染する。
(2)人から食品を介して人へ(食中毒)。感染した人が調理した食品にウイルスが付着し、それを食べた人に感染する。
(3)人から人へ(感染症)。感染した人の便や嘔吐物に触れることで、ウイルスが鼻や口から消化管に入って感染する。
厚生労働省によると、2016年のノロウイルスによる食中毒の発生件数は354件、患者数は1万1397人。食中毒の原因物質としては、どちらもトップだったという。
ノロウイルスは石けんでは死なないし、粒子がとても小さいので、普通のマスクや手洗いは予防法として意味がない。ホント? ウソ?
(1)ホント (2)ウソ
【答えと解説】 ノロウイルスには石けんや消毒用アルコールがほとんど効かない[注1]。ウイルスは細菌よりも小さいので、普通のマスクならすり抜けてしまう。とはいえ、「手洗いやマスクには感染を防ぐ効果がある」と片山さんは言う。
「手洗いは予防の基本。確かに石けんにウイルスを殺す働きは期待できませんが、流水で洗い流すことに意味がある。石けんを使うことで、少なくともぬめりが取れるまでは手を洗うので、しっかり時間をかけてウイルスを洗い流すことができます。トイレに行った後と、食べ物に触れる前には必ず手を洗う。洗った後はハンカチではなく、ティッシュやペーパータオルで手を拭いて捨てるといいでしょう」(片山さん)
ノロウイルスは指先よりも手のひらの根元につきやすい。手首までしっかり洗うように心がけよう。
また、ウイルス自体は確かに普通のマスクをすり抜けるほど小さいが、空中のノロウイルスは水滴やホコリに乗って漂っている。「それらが鼻や口から入るのを防ぐには普通のマスクで十分」と片山さん。感染した子どもの嘔吐物などを処理するときも、マスクをしておくと二次感染予防になる。
というわけで正解は(2)ウソ。普通のマスクや石けんによる手洗いも、予防として大きな意味がある。
高温多湿な環境が苦手なノロウイルス。冬場は人に猛威をふるうものの、夏は高原の牧場などにいる動物の体内でひっそりと過ごしている。ホント? ウソ?
(1)ホント (2)ウソ
【答えと解説】 人間だけに限らず、他の動物もノロウイルスに感染する。しかし、「タイプが違うので、動物のノロウイルスは人に感染しません」と片山さん。というわけで正解は(2)ウソ。
ではどこにいるのかというと、実は夏の間もノロウイルスに感染している人がいる。日本では感染者の約7%が症状の表れない「不顕性感染者」という調査もあり[注2]、ノロウイルスは夏の間は不顕性感染者によって維持される。冬になって空気が乾燥するとノロウイルスが空中に飛びやすくなるとともに、体温の低下によって免疫力が下がる。そこで免疫力の低い子どもや老人が不顕性感染者などからウイルスをもらって感染し、大流行を起こすのだという。
ノロウイルスには何回でも感染してしまう。その理由は、抗体ができない特殊なウイルスだからだ。
(1)ホント (2)ウソ
[注1]アルコール除菌スプレーの中には、抗ノロウイルス成分が入った製品もあるが、ヒトのノロウイルスに効果があるかどうかは検証できないため、効果は不明。
[注2]Ozawa K,et al. Norovirus infections in symptomatic and asymptomatic food-handlers in Japan. J Clin Microbiol. 2007;45:3996-4005.
【答えと解説】 通常、ウイルスに感染すると体内で抗体(免疫グロブリン)が作られる。再び同じウイルスが入ってきたら、その抗体がウイルスに結合することで感染を防いでくれる。それなのに、なぜノロウイルスは繰り返し感染してしまうのだろう?
「ノロウイルスには5つの遺伝子グループがあり、このうち人に感染するのはG1、G2、G4の3タイプ。遺伝子型で見るとG1が9種類、G2が19種類、G4が1種類で、合計29種類もあるんです。しかも、同じ遺伝子型のウイルスも年によって微妙に変化していく」と片山さんは説明する。
つまり感染するノロウイルスの種類が多過ぎて、1種類や2種類の抗体を作っても追いつかない。さらにウイルスの変化によって、以前の抗体が効かなくなってしまう。その結果、はしかと違って何回でも感染してしまうわけだ。
だが、希望はある。片山さんによると、「2016年に人の腸管幹細胞の培養に成功した」という。そこでノロウイルスを増殖させることで、新薬などの試験を行うことが可能になった。近い将来、画期的なノロウイルスの特効薬が登場するかもしれない。
というわけで正解は(2)ウソ。
ノロウイルスには酢や消毒用アルコールは効かない。しかし、たんぱく質でできているので熱には弱い。2~3分間、85~90℃で加熱すれば消毒できる。ホント? ウソ?
(1)ホント (2)ウソ
【答えと解説】 酢や消毒用アルコールでノロウイルスを殺すことはできない[注3]。しかし、熱には弱い。「2~3分間、85~90℃で加熱すれば消毒できます」と片山さん。というわけで正解は(1)ホント。
「感染した子どもがカーペットの上に吐いてしまったときなど、拭き取った後にスチームアイロンを使うといい。目安は1カ所に2分間。スチームアイロンがなければ、ぬれタオルと普通のアイロンでも代用できます」(片山さん)
[注3]アルコール除菌スプレーの中には、抗ノロウイルス成分が入った製品もあるが、ヒトのノロウイルスに効果があるかどうかは検証できないため、効果は不明。
北里大学北里生命科学研究所・大学院感染制御科学府ウイルス感染制御学1教授。1985年、東京農工大学農学部蚕糸生物学科卒業。東京大学大学院農学生命研究科で獣医学博士。ビー・エム・エル基礎研究部、国立感染症研究所ウイルス第二部主任研究官、同部第一室長などを経て、2016年より現職。国際カリシウイルス会議役員。
(ライター 伊藤和弘)
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