トランプ氏、「親ロ反中」鮮明に 外交にビジネス感覚
【ワシントン=鳳山太成】トランプ次期米大統領の就任が約1週間後に迫るなか「親ロ反中」の外交姿勢が一段と鮮明になってきた。13日の米紙とのインタビューで対ロ制裁の解除の可能性に言及する一方、中国に対しては貿易赤字の解消へ強硬姿勢を貫いた。「米国第一」を公約に掲げるトランプ氏は、外交でもビジネス感覚の利害得失を前面に押し出している。
「プーチン大統領が会いたがっていることは、私にとっても極めてすばらしいことだ」。トランプ氏は米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)のインタビューで首脳会談の実現へ前向きな発言を繰り返した。
米情報機関は米大統領選でヒラリー・クリントン前国務長官の勝利を阻むため、プーチン氏がサイバー攻撃を仕掛けたと分析。それを受けてオバマ政権は昨年12月、ロシアの情報機関職員を国外退去させるなどの制裁を発動した。だがプーチン氏は対抗措置には出ず、トランプ氏の出方を見守る対応を取っていた。
トランプ氏は11日、当選後の初めての記者会見で「ハッキングはロシアだと思う」と認め、オバマ政権の対ロ制裁に関しても「やり過ぎとは思わない」と一定の理解を示した。「プーチン氏と仲良くなりたいが、なれない可能性もある」と語るなど歯切れが悪かった。
ロシアに個人的な弱みを握られているとの疑惑報道もあり、20日の正式就任を控えて「現実路線」へ軌道修正したかと思われた。ところが今回のインタビュー発言で対ロ融和姿勢は改めて鮮明になった。AP通信などは米当局者の話として13日、次期政権で国家安全保障担当の大統領補佐官に就任するマイケル・フリン氏が、対ロ制裁の発表当日に駐米ロシア大使と複数回電話していたと報じた。オバマ現政権だけでなく次期政権の閣僚候補や与党・共和党内からも懸念の声が上がる。
対照的に中国には厳しい姿勢を崩さない。「中国は『人民元が下落している』と説明するが、わざと下落させているのだ」と元安誘導の為替政策を批判。一方で就任初日に実施すると明言してきた「為替操作国」の認定は「まず話しあう」と公約をあっさり撤回した。
中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」の原則の見直しの可能性にも言及した。実際、昨年12月には台湾の蔡英文総統と電話で協議している。米国は台湾を外交的に認めていない。過去に現職大統領や次期大統領が台湾総統と直接協議したことはなく、中国は強く反発した。
台湾に接近することで、習近平指導部が譲れない「一つの中国」の原則を取引材料に持ち出し、自国の貿易赤字解消を迫る交渉のテーブルにつかせる戦略にみえる。
中ロ二大国への好対照な姿勢に通底するのは、トランプ氏が掲げる米国第一主義だ。「世界の警察官ではない」と軍事面で海外への関与を薄める一方、経済面では米国内の雇用創出を重視する。中東の過激派組織「イスラム国」(IS)掃討やシリア和平協議でロシアと共闘できれば米軍の負担が減り、中国からの輸入に歯止めをかければ米国に生産現場と雇用が戻ってくるという計算だ。
トランプ外交は実業家らしく損得勘定にこだわって条件闘争する。ただし軍出身の閣僚候補らとの認識のズレも見え始めており、外交巧者の中ロ首脳を相手に実利を得られるかは不透明だ。