揺れる世界と日本(1)自由主義の旗守り、活力取り戻せ
2017年が明けた。米国のトランプ大統領の就任、英国の欧州連合(EU)離脱交渉の開始、仏独の選挙、韓国の大統領弾劾など、不確実性という言葉がこれほど似合う年はない。
混迷する世界で日本はどんな役割を果たせばいいのだろうか。
トランプ次期米大統領が掲げるのは大減税、公共投資、規制緩和の「3本の矢」だ。世界的なデフレに幕を引くリフレーション政策だとはやす人々もいる。
円安・株高に甘えない
足元の円安・株高は日本企業に収益の改善をもたらしている。昨年前半の急激な円高環境と打って変わり、このままの相場水準が続けば、3月期決算の企業は増益基調を維持できるだろう。
日本政府や企業はそれに甘えてはいけない。昨年末までの相場は米新政権の政策のいいとこ取りを反映したもので、日本自身の努力とはほぼ無関係だ。企業は好機を生かし、積極的に事業拡大の布石を打つべき時だろう。
一方トランプ氏が掲げる政策には、自由主義経済を損ねる要素も数多く含まれている。
「トランプ氏に自由市場のサポート役になるという発想は一切ない」(国際政治学者のイアン・ブレマー氏)。米国が中国やメキシコと対立し、関税引き上げなどの保護貿易に動けば、金融・資本市場にショックが走るだろう。
開放経済と民主主義のとりでであったEUも、相次ぐテロや移民問題などで揺らいでいる。中国やロシアのような強権主義が幅をきかせ、世界中が内向きになる時代だ。環太平洋経済連携協定(TPP)の発効も見通せない。
だからこそ、日本は自由主義の旗を掲げ続ける責務を負っている。戦後、資源のない小国が豊かになれた理由を忘れてはならないし、未来を貿易に託す新興国をサポートする役割もある。
安倍晋三首相はトランプ氏にTPPへの参加を粘り強く説くべきだし、並行してEUや中韓との協議を急ぎ自由貿易協定(FTA)で合意を目指すべきだ。
もうひとつ、日本が真剣に向き合わなければならないのは、加速するデジタル社会への対応だ。
「フラット化する世界」でグローバル化のありようを描いたトーマス・フリードマン氏。近著「Thank you for being late」で、デジタル化の衝撃を「スーパーノバ」(超新星)と名付けた。
「iPhone」や「Android」が生まれた07年がグーテンベルク以来の技術的な転換点の年だったと指摘している。この間、デジタル技術を使うコストは驚異的に下がった。人間一人分のヒトゲノムの解析費用は、01年に1億ドルだったのが、15年には1000ドルに下がった。
20世紀の生産性向上がブルーカラーの肉体労働の代替だったのに対し、これから本格化するのは人工知能(AI)によるホワイトカラーの頭脳労働の代替である。
20年の東京五輪・パラリンピックの際には自動運転車が走るだろう。通信速度が飛躍的に向上する5Gが普及し、あらゆるものにチップが埋め込まれ、センサーにつながる。
若手を前面に押し出す
アマゾン・ドット・コムが実験を公表したように、スーパーもレジなしで支払いができるようになる。あらゆるところで、仕事のあり方も変わってくるだろう。
そうした第4次産業革命を担うのは、デジタルネーティブと呼ばれる、物心ついたときからデジタルに親しんできた若手人材だ。
日本の旧来型の年次主義、終身雇用の就業システムで、こうした人材の実力を引き出すことができるかというと、疑問がある。
たこつぼ型の組織を変え、年次にかかわらず社内外から人を集めてチームを編成し、資金も投じるようでないといけない。
「人工知能が変える仕事の未来」の著者、野村直之氏は「大企業が世界で主導権をとるべく目標を掲げたら、必ず若手人材も育つ」と指摘する。「彼らは英語もできるし、コミュニケーション能力もある」。若者を前面に押し出せば、日本に活力が戻るだろう。
日本はこの150年、明治維新と敗戦という2つの断崖を乗り越えてきた。どちらも若い世代が活躍し、新しい日本をつくりあげた。それをいまこそ思い出そう。