「買い物カゴ持ち去り」泣き寝入り レジ袋有料化で多発
スーパーに備え付けの買い物カゴを持ち去る「カゴパク」が多発している。半年前のレジ袋有料化後に目立ち始め、巣ごもり生活の広がりに伴う来客増で店側の監視も行き届きにくくなった。商品の万引きでないため罪の意識は低く、「お客様」の行為ゆえ泣き寝入りする店が多いが、窃盗罪が強く疑われる行為だけに警察も摘発を続ける。
「毎月10個以上の買い物カゴがなくなる」。岐阜市の食品スーパー「三心 さぎ山店」の土田潤店長がため息をつく。以前も店に備え付けのカゴを客が持ち去ることはあったが、2020年7月に始まったレジ袋の有料化導入以降に増えたという。被害の増加を見越して、売り場では取っ手の付いたカゴを貸し出し、精算後の商品をレジで取っ手のないカゴに移し替える仕組みを整えた。警告の紙も張ったものの盗難は食い止めきれていない。
レジ袋有料化後に200個以上を盗まれたのは埼玉県吉川市のスーパー「マルサン吉川店」。持ち去ろうとする瞬間を見つけて引き留めた際、客は「私は毎日来ている客だ」「すぐ返すからいいだろう」と開き直った。斎藤元宏店長は「昨年9月にカゴを買い足した。1個当たり約300円。無料ではないと分かってほしい」と訴える。
小売業界で「カゴパク」と呼ばれる買い物カゴの持ち去りは窃盗罪に当たる疑いが極めて強い。罪に問われれば、10年以下の懲役または50万円以下の罰金を科されるが、東京・練馬の食品スーパー「アキダイ関町本店」は警察に被害届を出したことがない。秋葉弘道社長は「万引きと違い客に罪悪感がない。持ち帰る客の中に常連客もおり、大ごとにはしたくない」と話す。
オール日本スーパーマーケット協会(大阪市)などの調査によると、20年7~10月の全国のスーパーの食品売上高は、前年同期比で6%増えた。同11月の売上高(速報値)も前年同月比で5%増加。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、外食を自粛し巣ごもり生活を送る傾向が強まり、スーパーで食品を買う人が増えたためだ。
持ち去り横行の背景には、店内が混み合うことで、精算後の客の動きに店員らの目が届きにくくなったという事情もある。「ネット通販や他店舗で購入した『マイカゴ』をマイバッグ代わりに持参する人もおり、カゴパクなのかどうか見分けがつきにくい」(スーパー運営者)という。
買い物カゴやカートの窃盗行為を巡って埼玉県警は20年1~11月、72件を摘発した。前年の同時期と比べて4倍以上の高水準で、大半は買い物カゴを持ったまま路上を歩いている人を警察官が職務質問したことが摘発の端緒になった。盗んだ客は「マイバッグを忘れた」などと説明しており、客側の罪の意識の希薄さと、泣き寝入りしがちな店側の姿勢が改めて鮮明になっている。
香川大の大久保智生准教授(犯罪心理)は「新型コロナの影響で収入が減ったため、『1円でも節約したい』『レジ袋代も惜しい』という心理が働き、安易な持ち去りにつながっているのではないか」とみる。
「店側が何もしない限り被害は減らない。客だからと遠慮せず、あいさつ程度の声掛けや意識的に目を合わせるといった対応が必要だ。それでも返却しない場合は積極的に警察に通報すべきだ」と指摘している。(植田寛之)
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