Netflix、伸び減速も会員2億人へ 世界展開に強み
【シリコンバレー=佐藤浩実】米ネットフリックスは20日、2020年末までに世界の会員が2億人を超えるとの見通しを示した。7~9月期の会員の伸びは220万人と、前の四半期の5分の1に鈍ったものの、売上高と純利益は過去最高を更新した。新型コロナウイルスによる外出自粛の特需は一服したが、世界で事業を展開し、多様なコンテンツを抱える強みを武器に成長を見込む。
「想定どおりの減速だ」。20日の決算会見で、スペンサー・ニューマン最高財務責任者(CFO)はこう強調した。7~9月期の会員の純増数は、1~3月の1577万人、4~6月の1009万人に見劣りするが、気にするそぶりは見せなかった。「9カ月間の会員の伸びは昨年1年間を上回る2800万人。僕らは数四半期のトレンドを重視している」と語った。
そのうえで20年末の有料会員数が2億115万人に達するとの予想を公表。実現すれば、17年半ばに1億人を超えてから3年半程度での大台突破となる。配信開始から約10年かかって1億人に達したことを考えれば、そのペースは明らかに速まっている。
自信の背景にあるのが、世界各地で作って配信する体制と、ドラマや映画、ドキュメンタリーなど多様なジャンルを抱える強みだ。コロナ下でもその一端がのぞく。
「ネットフリックスが得意なドキュメンタリーは撮影を続けやすかったはずだ」。米ロサンゼルスを拠点に撮影監督として働く芳賀弘之さんはこう指摘する。大人数のエキストラが必要な映画と異なり、少人数でも撮影しやすいためだ。「密」を防ぐ屋外撮影で環境音が入っても、作品に違和感が生じにくい。
コロナ下では米レジェンダリー・ピクチャーズの「エノーラ・ホームズの事件簿」や韓国のゾンビ映画「#生きている」など、映画会社がネットフリックスに作品ごと譲渡する動きも相次いだ。自社で制作してアカデミー賞候補となった「アイリッシュマン」などを通じて、映画を見るサービスとしての土壌を整えてきたことが背景にある。
世界で事業を展開することの利点もここにきて実感できるようになってきた。例えば韓国など、コロナの感染拡大が落ち着いている地域で撮影を続けられ、そのノウハウを他の地域にも共有できたからだ。
米調査会社によると、ネットフリックスが7~9月に配信した独自作品のエピソード数は663と首位だった。2位のアマゾンプライムビデオの約5倍だったという。韓国ドラマ「愛の不時着」が日本でブームになるといった現象も多地域展開しているからこそだ。
ネットフリックスによれば、3月以降の撮影件数は50を超え、年末までにさらに150の撮影が控えているという。テッド・サランドス共同最高経営責任者(CEO)は20日、ドラマ「ストレンジャー・シングス」の新シリーズなど主力作品の制作を再開したことも明らかにした。
こうした環境も後押しし、強気な価格戦略も打ち出した。10月にはカナダで、高画質や多数の端末で見られるプランの価格を月額で1~2ドル引き上げた。「コンテンツ制作の原資」と説明しており、メディア業界に詳しいアナリストのマイケル・ネイサンソン氏は「米国などにも値上げを広げる可能性がある」と予想する。一方、成長余地が大きいとみるインドでは無料視聴のキャンペーンを始めるなど、会員拡大と収益基盤の両面に目を配る。
ただ、コロナがもたらした巣ごもりによる動画配信サービスそのものの盛り上がりは、ライバル企業がいっそう力を入れる契機になっている。
「映画館の閉鎖は寂しいが、車が登場した時に馬車に抱いた感情だろう」。著名アクティビストのダニエル・ローブ氏は10月、米ウォルト・ディズニー宛ての手紙にこう記し、映画をもっと動画配信に振り向けるよう揺さぶりをかけた。映画やテーマパーク部門の収益回復が見えないなかで、当面は配信が唯一の成長分野となるからだ。
ローブ氏の要望とは無関係としているが、ディズニーは12日に配信事業を強化するための大規模な組織再編を実施した。コンテンツを采配する専門部隊を設けることで、テレビや映画向けに作った作品を配信に回しやすくするという。米メディア中堅のバイアコムCBSも20日、配信強化のための人事刷新を発表した。
「消費者の時間をめぐる競争は常に激しい」。ネットフリックスのリード・ヘイスティングス共同CEOはこう語る。世界規模での制作・配信や多様さにおいて、ネットフリックスの優位はすぐに揺らぎそうにはない。その強みを生かしつつ、ライバルとの差を維持していけるか。2億人、そして3億人へと会員数を伸ばせるかのカギはそこにある。