原油安・M&A・訪日客で稼ぐ 経常黒字5年ぶり水準
15年度
経常収支の中身が大きく変わってきた。原油安と企業の海外展開、訪日客の増加の3つがけん引役になり、2015年度の経常黒字は5年ぶりの大きさになった。東日本大震災までモノの貿易で稼いできた日本経済の軸足は投資やサービスに移っている。ただ足元では原油が値上がりに転じて為替も円高方向に振れている。16年度は経常黒字が減る可能性もある。
財務省が12日発表した15年度の国際収支速報によると、経常収支は17兆9752億円の黒字となった。黒字額は前年度から倍増し、年度末に東日本大震災が起きた10年度(18.2兆円)以来の水準に戻った。
経常黒字の増加分の9.2兆円のうち、7.2兆円を貿易収支の改善が占めた。原油の値下がりで輸入額が減った影響が最も大きく、東日本大震災以降、赤字が続いた貿易収支は5年ぶりの黒字になった。
経常黒字を押し上げたのは原油相場だけではない。日本の稼ぐ力の構造変化も背景にある。
その一つが企業の海外展開の加速だ。M&A(合併・買収)助言のレコフによると、15年度の日本企業による海外企業のM&A件数は591件で6年連続で増えた。成長する海外市場を取り込もうという動きが活発になり、小売りや金融など内需型とみられていた業種もアジアなどに足場を築いている。
海外の子会社や関連会社が増えたため、日本企業が海外から受け取る配当も膨らんでいる。配当を含む15年度の第1次所得収支は20.5兆円と比較できる1985年度以降で最大。自動車メーカーや製薬会社などは海外から受け取る特許料や著作権料も増えている。
もう一つの構造変化が訪日外国人の増加だ。ビザ(査証)の発行要件の緩和などで中国人を中心に訪日客は増えており、15年度は過去最多の2135万人となった。外国人が日本で使ったお金から日本人が海外で使ったお金を差し引いて計算する旅行収支は1.2兆円と、こちらも過去最大になった。
旅行黒字が増えたことで、輸送や旅行でのお金の動きを映すサービス収支の赤字は過去最少だった。
14年度以降、経常黒字は大きく増えてきたが、今後は「黒字の伸びは一服する」(BNPパリバ証券の河野龍太郎氏)との見方が目立つ。理由の一つが原油価格が2月ごろから上昇傾向に転じていることだ。企業の海外展開が進み日本からの輸出は増えにくくなっている。原油高で輸入額が増えれば貿易収支は再び赤字になりかねない。
もう一つが円相場が円高傾向に転じていることだ。海外から受け取る配当や利子は円安で増えてきた面がある。SMBC日興証券の試算では15年度は円安で経常黒字額が1.2兆円増えたという。3月単月の第1次所得収支は前年比8.6%減っており、この流れが定着すれば経常収支を悪化させる要因になる。