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裏技で正答に 数学マークシート入試の問題点

桜美林大学教授 芳沢光雄

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 受験シーズンが近づいてきた。各大学の一般入学試験や大学入試センター試験で使われているマークシート形式の問題。素早く正確に採点できる半面、「論理的な思考が身につかない」など弊害もかねて指摘されている。実際どこまできちんと学力を測れるのだろうか。数学の場合、全く理解していなくても正答率を上げられる裏技があり、受験テクニックとして広まっている。これでは論理的な思考力どころか、基礎知識を確かめることもできない。具体的に見ていこう。

統計的に正答になることが多い番号は…

広まっている裏技の一つが「何も分からないときは、3にマークせよ」である。

入学試験は時間に余裕が少ないのが普通である。中でもマークシーク式問題はゆっくり考えている暇はない。それだけに受験生の心理として、テレビのクイズ番組で「ピンポン」とブザーを鳴らす早押しのように「素早く答えを当てればよい」と思うのは自然なことだろう。

時間が足りなくなって、残り1分となったときも諦めてはいけない。解答群が5~10個あれば、先頭から「3」番目に全部マークをするとよいのである。

これは過去実施された様々なジャンルのマークシート式問題の正答の分布から導き出せる。作問者の心理として、最初と2番目に正解を置くのは意外と勇気がいる。とはいっても、どこかに正解を置かなくてはならず、結局「3」番目に落ち着くことが多いのである。

同じく統計的に正解を当てる技として、根号記号√の中に一つの数字を入れる問題がある。これも解けないときは「3」をマークするとよい。

かつて大学院生と一緒に1990年から2003年のセンター試験の「数学I・A」と「数学II・B」の両方、この種の問題の答えがどうなっているか調べたところ(2003年は本試験のみ)、中に入る数字は2、3、5、6、7に限定されることが普通だが、3が最も多かった。

√の中に入ることが多い答えの数字は?
√の中
正解数488344248

受験塾などで「何も分からないときは、3にマークせよ」という裏技を教える指導があっても不思議ではないのである。

具体的な数を入れると…理解してなくても正答に

ただ、上記の受験テクニックは当てずっぽうに比べて統計的に正答を選ぶ可能性がやや高まるだけである。その点で、数学マークシート式問題の"公平性"はまだそれなりに担保されていると考えることもできる。次に"公平性"に少なからず疑問をもつ問題の例を挙げよう。

上の問題を考えるとき、

x=y=z=1

として計算すると、マークシート式問題ならば、正答を簡単に出せてしまう。右辺に□がある式の左辺の3つの項はどれも、分子が2、分母が3となる。そこで、2/3を3つ足して□は2であることが分かる。

もちろん、この方法は記述式の答案ならば0点の答案である。なぜならば、xyz=1という条件を満たすすべての場合について□が2になることを示してはいないからである。当然、記述式答案で満点の正解を得るためには、xyz=1から導かれる文字式の計算をしばらく続けて、最後に文字が鮮やかに消えて答えの2が出るまでの方法を書かなくてはならないのだ。

上記の間違った方法の解答も、マークシート形式ならば満点である。それは、答えだけを機械で採点するので、受験生が間違った方法で答えを出したか正しい方法で答えを出したかは確かめようがない。

また、このような問題は、数学を理解している良心的な学生にはかえって不利になってしまう場合もある。こうした受験生は時間がかかっても後者の方法で正解を導くことが多いからだ。

受験生の間に広がる受験テクニック

困ったことに、このような文字に具体的な数字を入れて答えを当てる受験テクニックで正解を見破ることができる入試問題は、過去いくらでも出題されている。さらに、このテクニックは受験生の間でかなり広がっている。記述式の問題に対する答案でさえ、このテクニックで導こうとする奇妙奇天烈なケースが後を絶たないほどだ。

次の問題も同じタイプの問題であるが、この場合は、文字変数の入った解答群を用意して選ばせる問題は、出題してはならないことを示している。

裏技の解答として、xに0を代入することを考える。このとき、問題に示された式の値は、

    -1-1+1+1=0

となる。解答群の中でxに0を代入して0になるのは、(1)だけである。したがって、答えは(1)となる。

なお文字に具体的な数字を代入したとき、たまに解答群にある正解の候補が複数残ることがある。その場合は、文字に別の数字を代入することにより答えはばれるのである。

教員採用試験にも受験テクで解ける問題

次は大小関係を利用して答えを当てる方法を紹介しよう。この問題は某県の教員採用試験に出題されたマークシート式の問題である。

問題3 四角形ABCDとDEFGは、どちらも2つの辺の長さが1と2の長方形で、点Gは辺ADの中点である。いま長方形DEFGを固定して、点Dを中心として長方形ABCDを右にゆっくり回転させ、長方形DEFGと重なったところで止める。このとき長方形DEFGにおいて、線分ADが回転して通った部分と重ならない斜線部分の面積を求めよ。なお、πは円周率である。

裏技の解答として、辺GFの中点をMとすると、直角をはさむ1辺の長さが1の直角二等辺三角形MEFの面積は0.5である。また、求める斜線部分の面積はそれよりだいぶ小さいように見える。

そこで、近似値

を(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)、(オ)それぞれに代入してみると、(ア)、(ウ)、(オ)は0.5より大きく、(イ)はほぼ0.5であることが分かる。したがって、答えは(エ)となる。

なお、問題3の正しい解答は、線分GDと線分HDの長さはそれぞれ1と2なので、角HDEは30°であることが分かる。そこで、三角形GDHと扇形HDEの面積が求まるので、正解の(エ)が導かれることになる。本来は、例えばこの考え方に沿って一歩ずつしっかり記述しなくてはならないのである。

裏技を恐れるあまり、良問が出せない

上で述べたようなことから、以下のような深刻な様々な問題点が出てきている。

「数学の問題は答えを導くのではなく、当てるもの」と、勘違いする生徒が多くなっていること。国内外の大規模な学力テストから日本の生徒は、計算力と比べて「論述力」が弱くなっていること。結果さえ良ければ途中のプロセスはどうでもよいと考える風潮を加速させること。出題側からすると裏技を恐れるあまり数学としての良問が出題できないこと……などなどだ。

日本数学会が一昨年2月、「大学の数学の入試問題はできるかぎり記述式にすること」といった内容を柱とした提言を発表したが、ごく一部を除いて生かされていないようである。

マークシート式の入試が本格化したのは、大学入試センター試験の前身、共通第1次学力試験が始まった1979年のこと。同試験の目的は主に"入試地獄の解消"であった。しかし受験戦争はなくならず、難関大学の受験生にとっては2次試験の前にマークシート式の試験が増えただけであった。1990年からは「私立大学の参加」などを掲げ、大学入試センター試験に移行。今では9割以上の私立大学がセンター試験を活用する。

入学試験のあり方、考え直す時期

一方、団塊ジュニア世代の入学を前にした1980年代、多くの私立大学が一般入試をマークシート式に次々と切り替えた。採点の手間や経費の削減に加え、合否を1日でも早く発表し、1人でも多く入学金を集めることが狙いだった。

大量の受験生をさばく対策としてとらえると、当時としては納得できる面もある。記述式の問題を一部残した私立大学も少なくなかった。しかしその後、受験生の数は大きく減った。団塊ジュニア世代が入学したころは一般入試の受験生数が学部で1万人を超えていたが、今は200人前後の私立大学がむしろ普通である。見直す時期が来ている。

マークシートだけではなく、推薦入試やAO入試(書類や面接などで選考する入試)など、論述を軽視する傾向は強まっている。マークシート入試と推薦入試、AO入試を合わせると、入学者の約7割を占める。言い換えれば、約7割の学生は記述問題を解くことなく合格していることになる。

大学センター試験については、中央教育審議会が10月24日、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に衣替えする案をまとめた。私立、国公立を問わず日本の大学の運営に携わっている方々には、大学入試の在り方が初等中等教育に大きく影響している点にも留意し、入試の在り方を大所高所から改めて考えていただきたい。

8月末に出版した『反「ゆとり教育」奮戦記』(講談社)で、この数学マークシート式問題が引き起こす問題点を含め、数学教育全般の諸問題について詳しく論じている。何かの参考にしていただければ幸いである。

芳沢光雄(よしざわ・みつお)
1953年東京生まれ。東京理科大学理学部教授(理学研究科教授)を経て、現在、桜美林大学リベラルアーツ学群教授(同志社大学理工学部数理システム学科講師)。理学博士。専門は数学・数学教育。『反「ゆとり教育」奮戦記』(講談社)、『新体系・高校数学の教科書(上・下)』、『新体系・中学数学の教科書(上・下)』(ともに講談社ブルーバックス)、『ほんとうに使える数学 基礎編』(じっぴコンパクト新書)など著書多数。

反「ゆとり教育」奮戦記

著者:芳沢 光雄
出版:講談社
価格:1,404円(税込み)

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