オフィス保証金を半額に VB支援へ新サービス
日本商業不動産保証
企業がオフィスビルに入居する際、ビルの所有会社に保証金を渡す。都心部だと家賃の10~12カ月分になることもある。入居企業にとっては長い期間、まとまった資金を寝かせておくことになる。今後の成長を目指すベンチャーにとっては、特に負担が重いだろう。国内で保証金を合計すると、ざっと30兆円に及ぶともいわれる。大きな市場が眠っていることに目をつけて、入居時の支払額を軽減するサービスが本格化した。日本商業不動産保証(東京・港)が提供する「保証金半額くん」だ。
入居企業が払えないと、保証を実行

同社自身も2011年設立のベンチャー。創業者の豊岡順也社長は証券会社勤務などを経て、現在の会社を立ち上げた。同社がビル会社と、ベンチャーなどの入居希望企業との間に入り、入居時の保証金を半額にする。残る半分の額は、万一の際に備えて同社が保証する。
日本商業不動産保証としては、標準モデルで家賃の0.25カ月分に当たる金額を年間手数料として受け取る。この手数料は入居企業側の負担だが、入居率向上策としてビル会社が支払う場合もあるという。実績は都心部で約100件だが、今後は対象を拡大する考えだ。
アベノミクスを背景に、企業活動が活発になり、オフィスビルの空室率も低下傾向にある。三鬼商事によると、5月末の東京都心部の空室率は6.52%と前月比0.12ポイント低下。空室率はこれで11カ月連続で下がった。
これに対して、豊岡社長は「各地で新築ビルの供給が相次ぎ、周辺のビルは空室のリスクを常に負う。しかも空室率の集計対象は、主要地区の一定規模以上のビル。集計の対象からはずれる物件まで含めると、なお空室物件は多い」と話す。
ITベンチャーの反響大きい
ビル会社にとって、テナントを確保する魅力づくりが必要となるが、「保証金半額くん」の場合、単純に入居企業に求める保証金を半額に下げるのではない。日本商業不動産保証が残る半分の金額を保証し、入居企業の経営破綻などで原状復帰の費用が不足した場合、代位弁済する点がミソ。ビル会社にとって自社に損害が発生する可能性を減らせる。
あわせて日本商業不動産保証が、決算書などに基づき入居希望企業を審査。このためビル会社は、入居企業を選別するための事務負担を軽減できるという。日本商業不動産保証は万一の際の保証の裏付けとして、大手損害保険会社と契約を結び、損害を補填できるようにしている。
一方の入居企業にとっては、日本商業不動産保証に手数料を払ったとしても、オフィスを構える際にまとまった資金を渡すことを避けられる。入居企業の企業規模は問わず、大手企業でも構わないが、「足元はITベンチャーの反響が大きい」(豊岡社長)。現在、月4~5件ずつ成約しているという。

もともと豊岡社長がこのサービスを考え出したのは、「外食チェーンが店舗出店時に保証金として差し出す資金が多額にのぼり、何とかできないかと頭を抱えている」と聞いたことがきっかけ。一方で、ビル会社が優良テナントの確保に苦心する様子も耳にしたことから、事業化に踏み切った。
眠れる30兆円市場、掘り起こしへ
ヤフーが「グランドプリンスホテル赤坂」(東京・千代田、旧赤坂プリンスホテル)跡地に建設中の高層複合ビルに入ることを決めたように、オフィス需要が大きいのは、かつてベンチャーだった大企業。ビル会社は将来に備えて、いまの大企業だけでなく、伸びる可能性があるベンチャーとも取引したいと感じている。
「国内で入居企業が差し出すオフィスビルの保証金はざっと30兆円」(豊岡社長)。入居企業からみた場合、これだけの資金を眠らせていることになる。この巨大市場でサービスの需要は大きいとにらみ、首都圏で活動を本格化。日本商業不動産保証は今後、地方都市でも、地元の不動産会社と連携してサービスを提供していく構想を練る。
(電子整理部 村山浩一)