医療改革、目立つ先送り 高齢者の負担増に及び腰
医療改革の先送りが目立っている。最大の課題は高齢化で膨らむ医療費の抑制だが、各政党とも高齢者の給付や負担の見直しに及び腰で、今の選挙戦でも争点になっていない。半面、現役・将来世代の負担は高まる一方だ。消費増税を先送りしても、現役世代のお金が消費に回らなければ景気の足を引っ張りかねない。改革は待ったなしだ。
現役世代の負担増は限界に来ている。9日の全国健康保険協会(協会けんぽ)運営委員会では、全国平均で10%となっている保険料率を来年度にどうするかを議論した。
協会けんぽに加入するのは中小企業の社員ら約3600万人だ。既に負担感は重く「10%が限界」として、平均料率を据え置くべきだとする意見が大勢を占めた。
保険料率が高止まりしているのは、高齢者医療費が膨らんでいるためだ。高齢者が自ら納める保険料だけでは賄いきれず、現役世代の会社員らが加入する協会けんぽや健康保険組合がお金を出している。健保の支出の約4割が高齢者向けだ。支出増に歯止めがかからず、各健保は保険料率の引き上げや積立金の取り崩しでしのいでいる。
高齢者への手厚い給付の見直しは避けられない。厚生労働省は来年の通常国会に法案提出を目指す医療改革で、75歳以上の高齢者の約半数を占める計865万人を対象に医療保険料を最大9割軽減する特例を段階的に撤廃する案を示した。
例えば年金年収80万円以下と所得が低いため最も軽減が大きい人は、現行の保険料が月額370円。給付がなくなれば月1120円と3倍にはなる。年金年収250万円以上で保険料軽減が全くない人の月1万円以上に比べれば低い水準だ。
ところが与党はこれに待ったをかけ、厚労省は給付抑制を盛り込んだ改革試案の11月上旬の公表予定を先送りした。
政治との関係で高齢者への給付が見直されなかった例は少なくない。70~74歳の医療費の自己負担は08年度以降、本来は制度上2割だ。だが高齢者の反発を恐れる歴代政権が、毎年約2千億円もの補正予算を組んで1割負担に軽減してきた。ようやく今年度の新70歳から軽減がなくなったが、見直しまでに6年もの歳月を必要とした。
70歳以上の外来医療費の自己負担額の上限を70歳未満に比べ大幅に軽減している特例も世代間の格差を広げている。健保組合などが見直しを求めているが、今回の改革法案では見送りの方向だ。
厚労省は衆院選後に改革案のとりまとめを目指すが、現役世代の負担増はそのままになりそうだ。柱となるのが、所得の高い大企業の健保組合について、高齢者医療費の負担を増やす案だ。公務員の共済組合も含めて年間2400億円の負担を増やし、それを財源に、退職した高齢者も多く加入する国民健康保険の財政支援に回す方向だ。