デンソーの「n分の1ライン」、小型設備で生産革新
デンソーが国内外の工場で生産改革に取り組んでいる。収益性を高める「ダントツ工場」づくりを国内で進め、為替が円高に振れても利益を出せる強固な体質に改善する。さらにそのノウハウを海外工場にも移植して競争力を高める狙いだ。最大の特徴は「n分の1ライン」と呼ぶ生産設備にある。「他社と同じ設備では同じものしかできない。競争力をつけるために最も重要」(加藤宣明社長)というデンソーの新しい製造現場に迫る。
2020年までに設備5割更新
聞き慣れない「n分の1ライン」の「n」は整数を表し、ライン長や製造工程で使われる設備のサイズを最低でも半分以下にしていく意味がある。実は2005年から始まったプロジェクトで、同ラインに使われるこれまでより小型の加工機はすでに全世界の設備の1割に導入されている。20年までに5割を新設備に置き換えることを目指す。
まず実際に、これまでの製造設備と「n分の1ライン」を比較してみよう。デンソーの主力工場でスパークプラグや排気センサーを製造する大安製作所(三重県いなべ市)には新旧の鍛造プレスラインがある。1982年の工場稼働時からあるプレスラインでは200トンの力でプレスする大型鍛造機が轟音(ごうおん)を響かせていた。鍛造機は工場の床面を掘らないと入らないほどの大型機で、移動ができないためレイアウト変更も困難だった。金型の交換や原材料の補充も人力ではできないため、クレーンを使う。金型1回の交換や点検に使う時間は1時間以上かかり、無駄が多かった。
一方で新ラインは作業員がかがんで内部を見るほどまでに小型化した。設備メーカーと共同開発した手法で、加工に必要な力を200トンから40トンまで減らし、設置面積も6分の1に縮小した。設備の小型化に伴って金型や原材料も小さくなり、人力で交換が可能になったことで金型交換の時間も数分に短縮した。
生産設備を小型化することで生まれる利点は一つに限らない。例えば、工程間の製造スピードの調整だ。これまでは各工程が独立して最善の生産量を追求していたため、製造時間の差で工程間に中間在庫がたまることが多かった。中間在庫が多くなれば貯蔵スペースが必要になり、工場のスペースが余分に必要だった。新ラインでは工程ごとの製造速度を合わせることで中間在庫を大幅に減らし、省スペースにも貢献する。旧ラインと新ラインを比較すると、加工コストは3割減らすことができたという。
空いたスペース生かす
中間在庫を貯蔵していた工場の空間が有効活用できると、原料から製品までの製造ラインを1カ所に収めることが容易になる。他の建屋や工場から運ぶための輸送コストが減らせ、省エネにつながるメリットも生じる。空いたスペースに複数のラインを置けば、増産に対応する場合でも新たな建屋や工場を建てる必要がなくなるとみられる。
大安製作所では15年以降、高度運転支援の関連需要に対応した新たな製品の量産に踏み切る方針だ。小型ラインの導入によって生じたスペースがこうした製品の製造設備に活用できることで、工場の生産性が高まる効果も生まれる。現在世界中で「n分の1ライン」の考え方を体現する加工機は300台超ある。3分の2が国内で、3分の1が海外だ。鍛造機械だけではなく、表面処理など様々な加工処理で同様の取り組みが進んでいる。
デンソーが「n分の1ライン」を組み合わせて工場の生産性を大幅に高める「ダントツ工場」づくりを始めたのは、東日本大震災後に超円高が進んだ12年から。背景にあるのは国内産業の空洞化の懸念だ。同社ほどのグローバル企業になれば、新たな生産方式を世界各国の工場に導入し、中間在庫や物流、エネルギーコストの大幅な削減につなげるのは時間の問題だともいえる。ただ「ダントツ工場」には国内工場の競争力を高めて雇用を確保しながら、ものづくり拠点を国内にとどめるという戦略も秘められている。(名古屋支社 二瓶悟)
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