FC制度も登場、増殖するアイドル個性派ビジネス
日経エンタテインメント!
エンタテイメントの一ジャンルとして定着したアイドルシーン。活況が続く市場に着目し、新しい取り組みが増えている。コンビニチェーンのようなフランチャイズ(FC)制度を導入したのが2014年9月10日にメジャーデビューした「お掃除ユニットCLEAR'S」。仕掛けたのは、ビクターエンタテインメント内のアイドル専門レーベルのバージョンミュージックだ。
CLEAR'Sは2011年に東京で結成し、その後、各地に同名のグループを展開しているアイドルグループ。それまでの運営主体だった「お掃除ユニットCLEAR'Sグループ本部」とバージョンミュージックが合流する形で2014年に「CLEAR'S運営事務局」を立ち上げ、本格的にアイドルグループのフランチャイズ事業を開始した。
アイドル運営に関する各種のノウハウとメジャーアイドルとしての「看板」を提供する見返りとして、Tシャツなどのグッズを卸したり、黒字の一部が還元されることで運営事務局は利益を得る。「フランチャイズに加盟するだけでメジャーデビューへの道が開く、地方の方にとっては、ある種夢のようなユニット」とバージョンミュージックの山本純代表は説明する。
海外のアイドルファンに注目、18万人の会員データを活用
アイドルをはじめとした日本のガールズポップカルチャーの情報を国外向けに発信しているのが、博報堂DYグループ傘下のオールブルー社が運営する「Tokyo Girl's Update」。開設は2013年7月。これまで150カ国以上からアクセスがあり、月間のPV(ページビュー)数は100万を超える。無料のメンバー登録者はここ半年で倍増し、18万人に達した。
女性アーティストに特化して最新のニュースや動画を配信しており、英語を中心に、フランス語や中国語でも提供。ファンレターを日本語に翻訳して本人に渡す「ファンレター翻訳サービス」など、個性的なサービスを提供する。
「日本のポップカルチャーと海外のファンとをつなぐプラットフォーム作りを目指す」とオールブルー社の助野太祐社長は話す。サイトでの日系企業とのタイアップやグッズの売り上げが収入の柱になるほか、18万人の会員組織を活用して、海外のファンの好みや属性を分析し、そのデータをベースにしたコンサルティングビジネスも軌道に乗りつつある。
個人活動アイドルもOK、デジタルアイテムを「投げ込み」応援
映像を生配信できるサービスが数多くあるなか、アイドルファンの間で存在感を増しているのが、ディー・エヌ・エーが2013年11月に開始した「SHOWROOM」だ。
注目度が急速に高まった理由は、番組の数と多様性。サービス開始当初から女性アイドルの番組に力を入れ、現在は毎週200~300本もの番組を配信する。2014年前半にはNMB48や乃木坂46も登場。そのほか個人で活動しているようなアイドルまで、出演者は幅広い。
最大の特徴は、ステージに向かってデジタルアイテムを投げ込む「ギフティング」という機能を使って、ファンが出演者を直接応援できること。視聴やコメントができる会員登録だけなら無料だが、より豪華なギフティングのためにはデジタルアイテムの購入が必要。この売り上げがSHOWROOMからアイドル側に分配され、両者にとって収入源となる。
「2013年の夏、実際にアイドルのライブや握手会に足を運び、その熱の高さに驚いた。ファンはいろんな形で繰り返し応援するため、そうした"気持ち"を直接やりとりするプラットフォームを作れば継続的な事業として成立すると考えた」とSHOWROOM総合プロデューサーの前田裕二氏は話す。
もともとはアイドルに関わりが薄かった企業や担当者が、熱気や、ファンの特性に注目した新規事業が目立つ。アイドル市場がいわば、エンタビジネスの"お試し"の場となっている形だ。今後は、こうした挑戦から大きなビジネスに発展する例も出てきそうだ。
バージョンミュージックが、運営事務局に参加する「お掃除ユニットCLEAR'S」。現在「東京CLEAR'S」のほか、「川越」「名古屋」の3つが正規グループとして存在する。2014年9月にメジャーデビューしたのは、この3グループに加え、研修グループの「大阪」「群馬」から選抜された9人によるユニットになる。
CLEAR'Sは「お掃除ユニット」というコンセプトを持つのがポイント。ライブや握手会などのほか、ファンと一緒にボランティアで清掃活動やごみ拾いなどを定期的に行う。日本掃除能力検定協会が認定する「掃除能力検定士」の資格の取得が、正規メンバーの条件だ。
自治体からも引き合い
社会貢献をコンセプトのひとつとして掲げていることで、地方の芸能事務所のほかにも、アイドルグループを町おこしに活用したい地方自治体や商工会議所などのNPO法人からも引き合いがあるという。フランチャイジー先は、事案ごとに運営事務局が判断して決定する。
バージョンミュージックは、レーベル立ち上げと同時に同名の株式会社も設立するなど、CDメーカーとしては一歩踏み込んだ取り組みを行っている。「アイドルを手がけるにあたり、単なるCDリリースだけではないビジネスを展開する狙いがあった」と山本純代表は解説する。
2014年9月24日にはマネジメントまで手がけるアイドルグループの第1号として、2人組の「WHY@DOLL」をデビューさせる。
「レコードメーカーの財産は『曲』や『作品』だった。しかし、著作隣接権を生業としてきた時代が転換期に差し掛かっているのではないか」と山本代表は話す。
「Tokyo Girls' Update」は、日本の女性アイドルの情報を海外のファン向けに配信している。運営は、博報堂DYグループ傘下のオールブルー社だ。
日本のアイドル関連の記事は、オフィシャル情報やニュースサイトから提供されたもの、独自に取材したものを英語などに翻訳したり、記者として選ばれた世界のユーザーが執筆している。日に2~3本程度のニュースが更新されており、注目度の高いイベントがあれば翌日には記事がアップ。会員になれば、ライブ動画も視聴できたり、ファンレターをアイドルに送るサービスも受けられる。ユーザー同士がコミュニケーションできるスペースや、グッズを通信販売で購入できるページも開設。こうした有料会員からの収入が主な収入源だ。
さらに、各国のアイドルファンの好みや行動動向をデータ化し、これを基にしたコンサルティングが事業のもうひとつの柱となる。
ファンの動向をデータ化
コンサルティング先は、主に2つある。ひとつは日本の芸能プロダクションやレコード会社など。海外進出や海外ファン向けプロモーションの手助けなどを行う。
例えば、2014年4月には多言語に対応しているクラウドファンディングサービス「Tokyo Girls' Update CROWD!」を立ち上げた。SUPER☆GiRLSのミュージックビデオ制作プロジェクトが500万円以上を集めるなど、これまで3つのプロジェクトがすべて成功。米国やシンガポールからもファンディングがあった。「海外ファンがクラウドファンディングを通じて、日本のポップカルチャーに直接関わることで、より関心度が高まり、海外におけるネクストステップにつながる」(助野太祐社長)。
もうひとつの顧客は海外プロモーションで日本のアイドルやアーティストを起用したいと考える、日本のグローバル企業。実際、大手電機メーカーや自動車メーカーの、現地プロモーションをコーディネートした実績がある。
助野社長がガールズポップカルチャーに着目したのは、海外で勝負できるコンテンツとしての優位性を感じたからだ。「日本で独自に育ったアイドル文化は、アニメと同様に海外で受け入れられる個性がある。ただ現状は、ちゃんとマーケティングが行われておらず、お店で例えると商品が棚にも並んでいない状態」(助野社長)。
このため海外のファンの間では、日本のアイドル市場のように人気や組織力の序列ができていない。実際に、フェイスブックの「いいね!」機能を基にしたアクセスランキングをみると、ライブグループのアイドルカレッジの記事が、他のアイドルを抑えてトップに立っている。制服やツインテールなどの分かりやすさが支持される傾向があるものの「海外ファンはフラットに評価するため、どのアーティストにもチャンスはある」と助野社長は語る。
ディー・エヌ・エーが2013年11月から開始した「SHOWROOM」は、当初から、特に女性アイドルによる番組に力を入れてきた。
"仮想ライブ空間"と銘打っている通り、スタジアムを模した「ルーム」と呼ばれるスペースで、パフォーマンスを楽しむ。視聴者がコメントを送り、出演者がリアルタイムで反応することでコミュニケーションも生まれる。
最大の特徴は、ステージに向かってデジタルアイテムを投げ込む「ギフティング」。1回の番組で、50万円以上に相当するアイテムが贈られた例もあるという。
「ヒントになったのは、アジア圏で流行していたWEB上の"投げ銭モデル"。普通の子が歌っているだけなのに、ファンがこぞってゲーム内で使える高価なアイテムをプレゼントしていた」と話すのはこの事業を立ち上げた、SHOWROOM総合プロデューサーの前田裕二氏。同氏はディー・エヌ・エー入社前に、米・ニューヨークで機関投資家に向けにアジア株をセールスしていた経歴を持つ。実業家への転進を考えていたところ、前述のヒントを見つけた。
「何の見返りもないのに、なぜ女の子にプレゼントが集まるのか、最初は非常に不思議だった」(前田氏)。そこで、実際に中国に渡り、ファンや関係者などにヒアリングしたところ、いくつかの要因が浮かんできたという。
認知欲や承認要求…無償でもギフトする理由
例えば、現実の社会では思うような人生を送れていない人でも、ネット上の価値では高価なものをプレゼントすることで、その相手に認められたり、周りから羨望のまなざしで見られる。無償のプレゼントはこうした「認知欲」や他者からの「承認要求」を満たすための行為と言える。また、自分が応援することで相手が目標に向かって登っていくという「貢献欲」のようなものも原動力になるという。こうした欲求を刺激するビジネスを日本で成立させるために、注目したのがアイドル市場だった。
サービスの独自性を強化するために様々な施策を行う。例えば、生放送にこだわるのは、リアルタイムのコミュニケーションを重視しているためだ。アイドル側に対しても、渋谷ヒカリエの本社内にスタジオを3つ設置するなど、配信しやすい環境を整えている。
さらに前田氏にはSHOWROOMから日本のエンタテインメント界を変革したいという思いがあるという。前田氏は渡米する前の大学生時代、ビジュアル系バンドのメンバーとして活動していた。そこで目の当たりにしたのは、実力があってもなかなか日の目を見ないバンドマンの姿だった。
「日本のエンタテインメント界は、運や"見えない力"に左右され過ぎると感じてきた。きちんと努力した人間に見返りがあり、上に登っていけるようなシステムを作りたかった」(前田氏)
実際、ギターやピアノで弾き語りをするような草の根的な活動でも人気を獲得するアイドルが出現。ファンとコミュニケーションすることで支持層を広げ、1回の番組で10万円を超えるギフティングを得る個人も現れているという。
(日経エンタテインメント! 上原太郎)
[日経エンタテインメント! 2014年9月号の記事を基に再構成]
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