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低い断熱性なぜ放置、世界に遅れる「窓」後進国ニッポン

松尾和也 松尾設計室代表

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ケンプラッツ
日本の住宅の断熱性能が相対的に低いことをご存じだろうか。部位ごとにみれば窓の性能に大きな課題がある。窓の重要性について啓蒙活動を続ける松尾設計室の松尾和也代表は、「『窓』先進国の欧州に比べればもちろん、日本と気候が近い中国や韓国にも劣っている」と話す。松尾代表に、近年の傾向を踏まえて解説してもらう。

日本は世界から見て、「ものづくり先進国」「超一流の工業国」というイメージがあると思います。しかしながら窓に限っては全く逆で、日本の工業製品の中でほぼ唯一といっていいほど、レベルの低い状態が続いてきました。

まずは、その証拠として世界各国の窓の断熱性に対する最低基準と日本の窓の実態を比較してみましょう。

窓の断熱性能は、「熱貫流率」という指標で比較します。U値とも言い、単位はW/m2(平方メートル)・Kです。1m2当たり、かつ1時間当たりに通す熱量を表し、小さいほど熱の出入りが少なく高性能であることを意味します。多くの国では窓の重要性がよく認識されており、U値に関して最低基準を設けています。その値をまとめたのが上の表です。

日本には非常に残念ながら、いまだに最低基準が存在しません。よくあるアルミニウム製の枠に一重(単板)のガラスを使った窓は、U値が6.5W/m2・Kと、とんでもなく低性能な値ですが、今もこうしたタイプの製品を販売することが許可されています。日本に5700万戸あるといわれる住宅の8割以上は、U値が6.5W/m2・Kというレベルでしかないといえます。

1999年制定の基準が現役

既存住宅は仕方がないとしても、新築住宅においても売れ筋の7割が4.65W/m2・Kという低いレベルにとどまっています。国内では窓の性能は星の数で表しており、その評価は下記のようになっています。

冗談みたいな話ですが、次世代省エネ基準という1999年(平成11年)に定められた基準が、いまだ住宅業界では「あがり」としてあがめられる風潮があります。基準値は地域によって異なり、東京や大阪など大半の地域を含むエリア(旧・IV地域)については、あろうことか、窓性能の目安として4.65W/m2・K以下と書かれているのです。

欧州だけが高基準にあらず

「欧州は省エネや断熱の基準が厳しすぎるから、それと比べるのは酷だ」。こんな意見がよく聞かれますが、それは欧州だけの話ではありません。お隣の韓国と比較してみましょう。

東京や大阪に該当する地域(図のSouth Zone)の戸建て住宅(同Detached house)に対する最低基準は2.7W/m2・K、推奨基準は1.6W/m2・Kです(60m2超)。これが意味するところは、同じくらいの温度域での比較では、今の日本の最高基準(2.33W/m2・K)が韓国の最低基準程度でしかないことを表しています。

さらに、日本では最近まで、断熱性能に有利な樹脂製の枠と三重(トリプル)のガラスを使った製品は、ほとんど販売されていませんでした。その状況下では、日本の最高レベルのサッシが韓国の推奨基準に達することができなかったのです。

では、中国と比較してみましょう。

この資料は2012年に作成されたものですが、既に東京や大阪と同じ温度域においては最低基準が2.5W/m2・Kとされており、韓国と同等の厳しさとなっています。

さらに、2015年をめどにこの基準が2.0W/m2・Kまで厳格化されることが検討されています。

こうしてみると、いかに日本の窓が世界的に遅れているのかが分かります。日本メーカーなのに、中国に向けては日本国内向けよりも性能の高い窓を出荷している会社があるほどです。

暑さの7割、寒さの6割は窓が原因

なぜ、世界各国がこのように窓の高性能化を厳格に進めているのか。もちろん、理由があります。

日本建材・住宅設備産業協会の調べによれば、住宅で生じる熱の損失を部位ごとに相対化してみると興味深いことが分かります。窓などの開口部を通して、冬に暖房の熱が逃げる割合は58%、夏の冷房中に入ってくる割合は73%にも及びます。暑さの原因の7割、寒さの原因の6割が窓とみなせます。

もちろん、家の断熱性能や形状などによって異なります。国によっても異なります。しかし、どの国でも暖房にかかるエネルギーはかなり大きな比率を占めており、窓はその原因の半分以上を占める部位なのですから、規制を厳しくするのは極めて合理的なわけです。

日本の住宅の冷房エネルギーについては、年間を通せば暖房の10分の1程度しか使われません。しかしながら、最も暑いとされる8月15日の14時頃は、1年で最も電力需要の高い時期でもあります。発電所の設備はこの時期の需要量をベースに計画されているので、暑さの原因の7割を占める窓を高性能化することは、やはり大きな意義があります。

アルミの枠は熱が逃げやすい

窓は枠とガラスで構成されています。このうちガラスの方はそれほど諸外国に比べて劣っているわけではありません。ペアガラス(複層=二重)やLow-Eペアガラス(低放射)といったガラスは、かなり一般化してきました。

問題は枠にあります。断熱性能が低い窓枠は、あたかも隙間風が吹き込むかのようです。日本のサッシの大半は、枠がアルミでできています。理由はアルミが加工しやすい、工場のラインがアルミ向けであるといったことにあります。しかし物理的に考えれば、枠にアルミを使うことはあり得ません。断熱性能の目安となる熱伝導率で各材料を比較してみれば明らかです。

熱伝導率は、アルミかそうでないかで約1000倍も異なるのです。だから世界的にはサッシの樹脂化や木質化は当たり前になってきています。

米国では全50州のうち24州でアルミサッシが禁止されています。日本で売られている4.65W/m2・Kレベルのサッシは大半がアルミでできていて、アングルと呼ばれる室内側の部位だけが樹脂でできている「樹脂アングルサッシ」と呼ばれるものです。これが売れ筋の7割を占めます。

大手住宅メーカーの大半が採用しているのはU値2.9W/m2・K(Low-Eペアガラス利用時)もしくは3.5W/m2・K(普通ペアガラス利用時)で内枠が樹脂、外枠がアルミでできた樹脂アルミサッシというものです。なかには、これを「樹脂サッシ」と呼ぶ人も存在します。

ペアガラスでも結露の恐れ

サッシに比べるとガラスはマシと言いましたが、2点ほど指摘しておきます。

まずは複層ガラスを構成する部材「スペーサー」についてです。ガラスを2枚重ねる場合、間に空気層を設けます。空気はガラスよりも熱を伝えにくく、空気があることで窓全体の断熱性能が向上します。その空気層を設けるため、ガラスの周囲に挟み込む部材がスペーサーです。

日本製の複層ガラスのスペーサーは、ほぼ100%がアルミでできています。これも物理的に考えるとあり得ない話です。そもそも断熱性能を上げるためにスペーサーを使っているはずなのに、その部材が熱を通しやすい材料で作ってあるわけです。いま欧米では、樹脂とステンレスを複合して作っている樹脂スペーサー(ウォームエッジともいう)と呼ばれる部材が徐々に拡大しています。

スペーサーの断熱性能を上げることは窓全体の性能向上につながりますが、それ以上に結露を防ぐという面で大きな意味を持ちます。

どんな窓でも最も結露する可能性が高いのは、下枠とガラスが接する近辺です。人間の健康に理想的な冬の室内環境は、室温が20℃で相対湿度が50%程度とされており、この状況では外気温が低いと、すべての樹脂アルミサッシで結露が発生します。

結露が発生するか否かは、まず枠が樹脂か木なのか、それ以外なのかでほぼ決まります。枠とガラスの断熱性能を比較した場合、一般的には枠の方が低いので、結露が生じるかどうかは枠の性能に引っ張られます。上記の室内環境で外気温が0℃であれば、結露が始まる温度(露点)は9.3℃です。アルミの枠では多くのケースで結露してしまいます。

樹脂スペーサーで表面温度2℃上がる

では、樹脂の枠でありさえすれば絶対に結露しないのかといえば、そんなことはありません。普及レベルで最高性能の樹脂枠、16mm(アルゴンガス注入)の空気層を持つLow-Eペアガラスというサッシについて、実際にほかの条件を変えて比較してみました。

アルゴンガスの有無と樹脂スペーサーの有無の計4パターンで下枠の温度を比較したグラフを示します。アルゴンガスは窒素と酸素で構成する空気に比べて熱伝導率が低いため、断熱性能を高めた複層ガラスの空気層に使われることがあります。

このグラフを見れば分かると思いますが、アルゴンか否かによる下枠表面温度の差はせいぜい0.2~0.3℃程度しかありません。しかし、スペーサーが樹脂なのかアルミなのかによって、2℃程度も違うのです。しかもこの2℃の間には、結露が発生するかどうかの境目である9.3℃というラインが含まれています。樹脂スペーサーであれば、空気層がアルゴンでなくても結露しないことが分かります。

「たかが結露くらい」と言われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、過去に日経アーキテクチュアが住宅の不満について住まい手1万1000人を対象に実施したアンケートでは、結露が不満ランキングの3位に堂々入っています。

「結露は瑕疵」の欧米

先の日本建材・住宅設備産業協会の調べによれば、窓など開口部からの熱損失は、少ない方の冬でさえ58%であり、次点の外壁15%と換気15%と比較しても圧倒的に大きくなっています。窓の設計が最優先かつ最大の課題であるのは、このためです。

窓の性能で最も重要なのはU値ですが、日本ではこのU値の表示方法に課題があります。

諸外国では枠とガラスを別々に計算します。同じ製品でも開き方や面積が違うと1枚ごとにU値を別々に表示するのが一般的です。我が国ではそうなっていません。窓からの熱損失は最も大きな割合を占めるにも関わらず、その窓のU値がかなり概略の表示になっています。

例えば2.33W/m2・K以下という表示であっても、実際には1.7W/m2・Kのものがあったり、ひどい場合は2.33W/m2・Kを超えるものも存在するのが実態です。その結果、正確な情報が分かりにくくなっています。

ドイツやオーストリアでは窓の結露はもちろんのこと、壁体内の結露においても徹底的に抑制が図られます。「建築物理上、結露を引き起こすのは誤った設計であり、人の健康を害するから瑕疵である」という考え方が根底にあります。事の重さを痛感します。

オーストリアでは鉄筋コンクリート(RC)造マンションなどは、コンクリートの水分がほぼ抜けるまでの2~3年は家賃が低く貸し出されるということも聞いています。そもそも欧州のマンションは外断熱工法なので、結露は日本に比べてはるかに少ないのですが、そのうえでの話です。

一方、日本なら築後2~3年は賃料が最も高く取れる時期です。それどころか日本ではほぼ全てのマンションで、北側の部屋が結露に悩まされています。マンション販売会社によっては、「加湿器を止めてください」にとどまらず、引き渡し時に除湿機をセットにして渡している会社さえあります。

居住者の健康に対して国や建築関係者がどう考えるか、「健康で文化的な生活を送る」に当たって温度や湿度といった重要条件をどう考えているのかがよく分かる一例です。少なくとも、欧米の大半の国ではこうしたことを「基本的人権」と捉えて重要視しています。

2014年は「窓改革元年」

欧州ではこれまで20年以上かけて、地道に、まずは断熱強化に取り組んで来ました。一定の成果が見えてきたということで、ようやく一次エネルギー基準に取り組み出しています。

一方、日本の政策は、断熱性能の低い状況を放置しながら設備機器によって一次エネルギーさえ減らせれば良いと考えている節があります。エネルギー輸入量、光熱費、CO2(二酸化炭素)排出量を減らすことが目的で、住む人の快適性や健康といったことは二の次になっています。家を建てるお金を払うのも、そこに数十年住み続けるのも住人であるのに、その住人のことが第一に考えられておらず、窓メーカーも法律や基準も現状に甘んじています。

とはいえ、2014年に入ってから日本の窓メーカーに、この状況を改善していこうという気運が生じています。現在は各社がU値1W/m2・K前後と世界レベルのサッシを発表しています。北海道や東北、日本海側の地域ではこのレベルが必須といえます。東京や大阪の近辺でも、U値1.5W/m2・K程度の窓が、健康で快適でありながらトータルコストを安く抑えるのに必須のアイテムです。

2014年は、こういった窓が普及し始める「窓改革元年」です。メーカー側がこうした窓を発売したからには、次は設計者や工務店が使う番です。

窓を製造する側の事情に基づいて作られた基準をベースに設計を行うことは、全く意味がありません。設計者、工務店は誰の家を作っているのかをきちんと考えれば、不十分な基準に基づいて自社仕様を決めることは絶対にあり得ないはずです。

松尾和也(まつお・かずや) 松尾設計室代表、パッシブハウスジャパン理事。1975年兵庫県生まれ、1998年九州大学建築学科卒業(熱環境工学専攻)。日本建築家協会(JIA)登録建築家、一級建築士、APECアーキテクト

[ケンプラッツ2014年9月25日付記事を基に再構成]

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