セブン、PB缶コーヒーも大ヒット データで予見
セブン&アイ・ホールディングスとサントリー食品インターナショナルが共同開発したダブルブランド缶コーヒーが売れている。今年1月に「セブンプレミアム×サントリーボス『ワールドセブンブレンド オリジナル』」とともに発売された糖類50%オフの「ワールドセブンブレンド 微糖」は月間500万本近く売れるなど、セブン-イレブンが扱う缶コーヒーで売れ行きナンバーワンに躍り出た。
新商品の発売後にあらためて「ナナコ」の購買データなどを分析したところ、「ワールドセブンブレンド 微糖」と、昨年ヒット商品になった「セブンカフェ」は、すみ分けていることがわかった。セブン&アイの担当者らが緻密なデータ分析によって予見していたとおりの結果だ。なお、セブンカフェとは、店頭のコーヒーマシンから注ぐ入れたてコーヒーのことである。
「ワールドセブンブレンド 微糖」は、これまでセブン-イレブンで最も売れていた日本コカ・コーラの「ジョージア エメラルドマウンテンブレンド」を一気に追い抜き、缶コーヒーの中でトップに躍り出た。オリジナルと微糖で年間200万ケース(6000万本)を見込んでいたが、微糖だけで楽々達成する勢いだ。
このヒットを受けて、今年4月22日にブラックの300gボトル缶を発売。出遅れていた缶コーヒー市場で一気に攻勢をかけている。
缶コーヒー低迷の理由にされかかった
国内のコーヒー市場(家庭を除く)は年間約295億杯(2013年12月10日付の日本経済新聞記事を参照)。そのうち、缶コーヒーは約140億杯と半数を占める。
これに対し、スターバックスやドトールなどの喫茶店は約35億杯、プラスチック容器などで提供されているチルドコーヒーは約15億杯、ファストフードは約10億杯、コンビニエンスストアの入れたてコーヒーは約7億杯である。セブンカフェはコンビニコーヒーの6割超の約4億5000杯を占めている。
国内缶コーヒー市場でセブン&アイのシェアは約6.4%。1店当たりの缶コーヒーの販売本数が前年を割るなど低迷していた。その中で唯一気を吐いているのがコンビニコーヒーだった。
このため「担当者は低迷の理由として、缶コーヒーの販売がセブンカフェの影響を受けて下がっていると説明してきた」(セブン-イレブン・ジャパン取締役常務執行役員の鎌田靖商品本部長)。果たしてそれが本当かどうか、ナナコの購買データなどを分析してその理由を明らかにした。その結果、「缶コーヒーとセブンカフェはほとんどカニバらない(食い合いしない)ことが分かった」(同)。
具体的には、ナナコの購入データを分析したところ、昨年、主に次の6点が分かった。まず、(1)セブンカフェの購入者は、他のコーヒー飲料に比べて女性の比率が高く、若い世代と年配の世代が多い。これに対し、(2)缶コーヒーの購入者は、30代と40代男性の比率が高く、(3)缶コーヒー購入者の78.6%は男性だった。
さらに、(4)セブンカフェ購入者の約4割は、今までコーヒー飲料を買ったことがなかった人であり、(5)セブンカフェ購入者の約2割はチルドコーヒーを買っていた人、同じく約2割は缶コーヒーを買っていた人、同じく20.8%はチルドと缶の両方を買っていた人だった。
そして、(6)セブンカフェをほぼ毎日購入している人の96.5%は、継続して缶コーヒーを飲んでいるが、たまにセブンカフェを飲むライトユーザーの59%は缶コーヒーを買わなくなった、ということが判明したのである。
(1)と(2)、(3)から、セブンカフェと缶コーヒーは購入層があまり重なっていないこと、(4)からセブンカフェは新規ユーザーを掘り起こしたことが分かった。
(5)と(6)からは、セブンカフェの購入者の約2割は缶コーヒーを買っていた人だが、セブンカフェをほぼ毎日飲んでいる人の多くは缶コーヒーの購入も続けていることが分かった。
また、コーヒーの購入客層を分析したところ、上図のように缶コーヒーとセブンカフェ(ホットおよびアイス)の購入客層分布が重ならないことが分かった。以上から、鎌田商品本部長はセブンカフェと缶コーヒーはカニバらないと判断した。
実はセブン&アイは、過去にPBの缶コーヒーを商品化したことがあるが、思ったようには売れなかった。今回その原因を知るために、お客にアンケートを取った。「缶コーヒーを購入する決め手は何か」への回答は、ブランドが55%、味が65.6%、価格が39.7%だった。
「ブランド力が必要なことが分かった。そこで多くのコーヒーブランドがシェアを落とす中にあって、逆にシェアを伸ばしているサントリーの『BOSS』と手を組んだ。結果としてその仮説が当たった」と鎌田商品本部長ははっきり言う。「セブンプレミアム」と「BOSS」のロゴマークと数字の「7」を大きくして、ダブルブランドであることをはっきり示すパッケージにした。
味に関しては、世界7カ国のコーヒー豆をバランスよくブレンドした。商品化に当たっては、データ分析やアンケートのほかに、缶コーヒーの消費のされ方を観察した。昨年11月に日本各地に出かけて調べた。例えば、ドライバーにとっては、缶コーヒーの方が飲みやすい。スチール缶なので、冬場はカイロ代わりになるといったことが分かってきたのだ。
「金の食パン」でもデータ活用
昨年ヒットした高級食パン「セブンゴールド金の食パン」でも、ナナコの購入データを活用している。一般にパン市場は、菓子パンと食パンが5対5という。ところが、セブン-イレブンの場合は、菓子パンが圧倒的に多くて年間1281億円。食パンは197億円しかなかった。
おりしも「消費者は価格よりも質を求める」という調査結果も出ていた。そこで昨年4月、原料や製法にこだわった「セブンゴールド金」ブランドの食パンを1斤6枚入り250円で、同ハーフ厚切り2枚入りを125円で発売した。
仮説は的中した。金の食パンは発売後4カ月間で1500万個を突破した。昨年5月に同商品を買った人の約5割は、過去3カ月間(1~3月)食パンを買っていないことが、ナナコの購入データで判明した。つまり新たな市場を掘り起こしたのだ。
ナナコの発行枚数は約2839万枚(2014年2月時点)で、セブン-イレブン利用者の約2割が支払いに使う。売り上げの分析だけでなく、消費者のニーズに合った商品の開発に今後も活用していく考えだ。
(日経ビッグデータ 多田和市)
[日経ビッグデータ2014年5月号の記事を再構成]
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