「東京金融シティ」、アジア中核へ最後の好機 3機関提言
日本経済研究センターと大和総研、みずほ総合研究所が16日に打ち出した「東京金融シティ構想」は政府の国家戦略特区との組み合わせで、金融を成長産業に育てる試みだ。デフレの出口が見え始め、2020年の東京五輪開催が決定。追い風が吹く今が、東京をアジアの金融センターに発展させる好機ととらえている。
政府は15年度から段階的に、35.64%の法人実効税率を引き下げる検討を進めている。提言は国の法人税率引き下げだけでなく、東京都の地方税減税も加えて、コスト面で海外の金融センターに対抗すべきだと促した。
英民間機関が金融業の視点から主要都市の機能を評価した「国際金融センター指数」によると、東京は6位どまりだ。法人実効税率が東京の半分程度の香港(3位、税率16.5%)やシンガポール(4位、17%)などに水をあけられている。
政府は3月に東京など6カ所を特区と定め、今夏にも各地の特例措置をまとめる。東京都の舛添要一知事は特区を活用して金融業を育てる意欲を示してきた。16日の記者会見でも、提言について「取り入れるべきものは取り入れたい」と前向きな姿勢を示した。
東京五輪開催に向けた外国人に優しい都市づくりと、国際金融センターを目指す努力は同一線上にある。提言は医療や行政サービスを多言語で提供し、インターナショナルスクールなども支援すべきだとした。みずほ総合研究所の土屋光章社長は記者会見で「金融業だけでなく、アジアとの連携など波及効果の大きい構想だ」と述べた。
提言が参考にしたのは英ロンドンの金融街「シティー」。シティーの顔として海外金融機関を招致する「ロード・メイヤー(市長)」がいるのが特徴だ。大和総研の武藤敏郎理事長は「東京の魅力を訴えるために日本版メイヤーを置くべきだ」と力説した。
東京をアジアの中核金融都市にするには、周辺国との協調が欠かせない。外国企業や投資を呼び込むために、外貨建て決済の仕組みを整えるというのが提言の柱。東京市場で扱う通貨を増やしたいとしており、人民元はその筆頭。だが日中関係が不安定では、通貨取引の許認可など国際金融の交渉も展望しにくい。
英シティーは1970年代の停滞を経て80年代以降に見事に復活を果たした。批判を覚悟でビッグバンと呼ぶ制度改革に踏み切った故サッチャー英元首相の鉄の意志があってこそだった。
90年代の日本版ビッグバンは外国為替法改正など一定の成果を残したが、日本経済の低迷もあって東京を押し上げるには力不足だった。日経センターの杉田亮毅会長は「アジアの金融センターにする構想は以前からあった。(デフレ脱却や東京五輪開催などの追い風が吹く)今が最後のチャンス」と強調した。構想が実現するかどうかは、政府、東京都、民間の3者が具体化へどれだけの覚悟で力を合わせられるのかにかかっている。