ディズニーだけじゃない!?「裏浦安」の隠れた魅力
首都圏イーストサイド繁盛記
東京都江戸川区の東側に位置する千葉県浦安市。年間3000万人以上が訪れる東京ディズニーリゾート(TDR)の存在で全国的な知名度を誇るが、もともとは山本周五郎の「青べか物語」でも描かれた東京湾岸の漁師町だ。テーマパークの外側にも、この街ならではの魅力がたくさん隠れている。
■漁師町の名残
東京メトロ東西線の浦安駅から北に歩くこと3分。壁面に描かれた巨大なクジラが目印の浦安魚市場にたどり着く。ウナギのかば焼きや魚介類の香りが漂う場内に足を踏み入れると、マグロやアサリに加え、牛肉、のり、野菜など豊富な食材が目に飛び込む。
市場が現在の場所で開業したのは1971年。現在は飲食店を含め、約40の店舗が入居する。土日祝日を含め、午前4時から正午まで営業。客の目の前で魚をさばくなどして対面で新鮮な食品を売っている。
「地方からTDRに来た観光客が市場に立ち寄り、土産を買ってくれるようになった」
マグロを中心に取り扱う「泉銀」の店主、森田釣竿さんは話す。もともと漁場だった東京湾を埋め立ててできたのがTDR。昭和初期から魚介の売り買いが盛んで、魚市場ができたのもそのためだ。
森田さんのもう一つの顔は、マグロを解体しながら演奏するロックバンド「漁港」のボーカル。音楽大手のユニバーサルミュージック(東京・港)からCDを発売した経験もある。包丁片手に歌で魚食を推進してきただけに「ここは魚のテーマパーク。もっと魚のメッセージを発信したい」と意気込む。
市場を運営する浦安魚市場協同組合の中村一生事務長は「来場者数は土日の最も多い場合で1日700~800人。観光客をもっと呼び込みたい」と話す。老朽化した施設の改修や空いている区画へのテナント誘致などが今後の課題という。
浦安市は市域の8割が埋め立て地。街ができた時代で3つの地区に大別できる。浦安駅周辺など古くからある「元町」、JR京葉線の新浦安駅やTDRを含む埋め立て地の「中町」、1975年から始まった第2期の埋め立てでできた「新町」だ。
比較的若く、出身地もバラバラな住民が多い新町に対し、魚市場がある元町には、81年の市制移行前の浦安町時代からの住民が多く住む。ただ、新しい住民とも積極的に交流する人が多く、それが個性的な店の集積につながっている。
ガーナ出身のブラウンさんが経営するバー「Bristol23浦安店」もその1つ。客のリクエストに応じて店内で洋楽をかける。2012年に浦安駅近くのビル内で開業した。「朝5時に魚市場に行き、マグロやカツオの刺し身を買っている。来店客に市場をすすめているよ」と、すっかり街に溶け込んでいる様子だ。
金曜日の夕方。ガーナ出身のスタッフ、ティムさんと常連客らが日本語と英語を織り交ぜながら音楽の会話に花を咲かせていた。近くに住む40代の男性客は「英会話の勉強もできるし、ちょっとした海外旅行気分を味わえるのも魅力」と話す。
■ランチビュッフェに人だかり
TDRに近いため浦安市内にはホテルが集積している。市内全域の客室数は世帯数の1割強にあたる8000室超。特にTDRに近接するホテルの客室稼働率は好調さの目安とされる7割を大幅に上回る9割前後を維持しており、いつも宿泊客であふれかえっている。
そのほとんどは朝からTDRに向かい、ホテルから姿を消す。代わって昼間やってくるのは地元の住民だ。
新浦安駅に直結するホテル「オリエンタルホテル東京ベイ」内にあるレストラン「グランサンク」には毎日昼時になると、小さい子どものいる家族連れやシニア夫婦、女性グループらで200ある座席があっという間に埋まる。お目当てはランチビュッフェだ。
大人1人の料金は3000円弱。ランチにしては安くはないが、浦安市内で優雅な生活を送る主婦「マリナーゼ」たちに支持されている。舌の肥えた彼女らを満足させるため「有名ホテルから優秀なシェフを迎え入れるなどして、食事には相当力を入れている」(相原米夫総支配人)という。
■温泉もあります
あまり知られていないが温泉も湧く。
温泉のほかサウナもある温浴施設を備えた「スパ&ホテル舞浜ユーラシア」には、近隣の住民のほかTDRに客を送り届ける大型バスの運転手やバスガイドでにぎわう。なかでも目立つのは、3世代でTDRを訪れた家族客のうち祖父母世代と思われる客の姿だ。
日帰り客と宿泊客をあわせ、利用者は年間約40万人。「『こんなに大きな温泉がTDRの近くにあるとは知らなかった。次回はテーマパークを早めに切り上げて来館したい』という客もいる。若い世代でもそう考える方がいる」(運営会社の遠矢博憲部長)。
地元の観光業界でつくる浦安観光コンベンション協会は、TDRを訪れた観光客に市内を周遊してもらうことを目指して、ボート体験や大学のキャンパスツアーなどの開発に力を入れる。
同協会の柳内光子会長は「TDRのおかげで全国と浦安はつながっている」と指摘。そのうえで「浦安駅周辺を再開発したり、観光客が周遊できるよう市内を南北に移動する交通手段を整備したりできれば、浦安はシンガポールのようになれるはず」と夢を描く。
(戸田健太郎)