春秋
時の節目は年末だけではない。きのうは神社へ出かけ、茅(ち)の輪という茅(かや)でできた大きな輪を三度くぐって身を清め、ことし後半の心機一転を誓った方もいるだろう。夏越祓(なごしのはらえ)などと呼ばれる6月末日の神事で、一茶に「母の分も一つくぐる茅の輪かな」の句が残っている。
▼そして迎えたきょう1日はこの国の戦後の歴史の大きな節目である。集団的自衛権の行使を認める閣議決定が予定されている。歴代の政権が「憲法9条があるのでできない」と言い続けてきたものを「憲法9条があっても許される」と改める。2度目の就任から1年半、熱意をみれば安倍首相の念願成就といった感がある。
▼今の憲法がまだ明治憲法の改正案だった昭和21年6月、時の吉田茂首相が9条にからんで国会で答弁した。「改正案は自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄したものであります」「近年の戦争は多く自衛権の名において戦われた。満州事変しかり、大東亜戦争またしかり」。以来9条は一字一句変わっていない。
▼一方で解釈は変わり続け、ついに集団的自衛権の行使を盛り込んだ「新釈9条噺(ばなし)」最新版の完成である。時の流れに乗って遠くまできたものだが、十分な議論の末かどうかには心もとなさが残る。わが身も母も大切。でも、この国の行く先を考えねばならない節目でもある。ことしの夏越祓にはそんな気分がついて回った。