ものづくり変えるIoT ソフトな発想が必須に
校條 浩(ネットサービス・ベンチャーズ マネージング・パートナー)
先月、シリコンバレーの展示場で「メーカーズ・フェア」が開かれた。8カ所のステージ、200のスピーチ、1000を超える展示ブースに、家族連れも含め13万人が来場したという。
内容は、アートのような個人の趣味の世界から、ハードウエア回路、3D(3次元)プリンター、ロボットまで何でもありだ。CAD(コンピューターによる設計)ソフト開発会社の社長や「メイカーズ革命」の火付け役の人物、著名ベンチャーキャピタリストらのスピーチもあり「米国型ものづくり」の動きが急速に盛り上がりつつあることが実感できた。
「ハードウエアが次のソフトウエア」
米国で注目されているこれからの「ものづくり」は、IT(情報技術)の発想が主導する「モノのインターネット」(Internet of Things=IoT)と呼ばれる。IoTはもともと、モノとモノを直接インターネットでつなぐ技術を指したが、最近では「ITとハードウエアの融合による、新しい製品パラダイム」にまで拡張したコンセプトになりつつある。
シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)界では「ハードウエアが次のソフトウエア」とも言われている。世界を席巻したソフトウエア系の企業や人材が、ハードウエアも取り込んで事業領域を広げるという。
ソフトウエアの強みはその発想の自由さだ。まずは創造的な発想をして製品を作ってしまう。次々と改良していくことにより、最終製品を完成させていく。一方、ものづくりは、モノや材料を相手にしており、事前の実験や微妙な調整が必要だ。モノは「ちゃんと動く」ことが最大の難関なので、実現性への心配が先に立つ。だが3Dプリンターやハードウエアのモジュール(複合部品)化など「ものづくり」が自動化・モジュール化されつつあり、IT発想の人にはとても分かり易くなってきた。
逆に、これからのものづくりには、クラウド、ビッグデータ、ソーシャルメディアなどITのトレンドを取り入れることが不可欠となる。日本は今までソフトウエアをハードウエアのお飾りにしてきたので、ソフトウエア人材の厚みがない。今までのものづくりだけに凝り固まるのではなく、ソフトウエア中心の新しいものづくりの世界に目を向けるべきだろう。
幼稚園がグーグル・グラスを導入
ヘルスケア、農業、エネルギーなどの分野でもITが中心になっている。これらもIoTのカテゴリーに入るようになる。ITがすべての産業の変革を加速し、多様な価値を生み出す「IT前提社会」が目前に迫っている。
私の友人の子供が通うシリコンバレーの幼稚園では、最近3Dプリンターや眼鏡型端末「グーグル・グラス」も導入したそうだ。IoT分野のプログラミングのクラスも週3回あり、IT企業出身の専任技術スタッフが運営している。予算は、他の授業の分を削って捻出したそうだ。この分野への意気込みがうかがえる。
日本のものづくりの技術は依然世界トップレベルだと思うが、今までの世界に安住していると足をすくわれる可能性がある。ITの中心地であるシリコンバレーがハードウエア・IoTに注目している今こそ、シリコンバレーを利用することを考えるべきだ。
日本が得意とするものづくりのノウハウと、シリコンバレーが得意とする事業モデルの創造やIT開発を融合することにより、グローバルに勝負できるハードウエア事業を生み出すことができる。IoTというハードウエアの新しい潮流は、日本にとって「ものづくりの復権」の大きなチャンスだ。
[日経産業新聞2014年6月24日付]