春秋
パソコン好きは部屋にこもる。カーマニアは女友達とドライブへ。IT機器とクルマ、いずれも若い男が好む分野だが、愛好家同士は互いを冷ややかな目で見ていた。そんな昔を知るだけに、ニュースを感慨深く聞いた。米グーグルが自動運転車を独自に開発した話だ。
▼先日公開した試作車は、運転開始と終了のボタンがあるだけ。ハンドルもアクセルもブレーキもない。運転のうまい男がモテる時代を終わらせたいオタク集団の執念――ではない。人による無謀運転や不注意をなくせば事故が減る。高齢者なども出かけやすくなる。省エネにも優れる。2020年の実用化を目指すという。
▼狙いは社会性だけではない。本紙の記事によれば、「自動車に乗っている時間の有効利用」も開発の目的に掲げている。忙しく働く人は動く個人オフィスとして、移動しながら仕事をこなすようになるかもしれない。社会性と経済性を兼ね備えた新市場を巡り、IT企業や自動車会社の間で主導権争いが激しくなってきた。
▼トヨタ自動車などは今年秋、自動運転の実験のため、道路や建物、信号を備えた「街」を米国につくるそうだ。技術の精度、法律、万一の時の責任問題などの壁を見すえつつ、民間企業が競争を通じ事故や高齢化という社会課題の解決に取り組む。その結果が個々の企業だけでなく国の成長にもつながる。そういう時代だ。