米軍作戦が迫る中国の国際ルール順守
南シナ海がさらに波立ってきた。中国がつくった人工島の近くに、米軍が艦船を展開し始めたからだ。中国は国際ルールを順守し、責任ある行動に出ることで緊張を和らげてもらいたい。
中国は周辺国と領有権を争う南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で、7カ所の岩礁を埋め立て、人工島を造成した。そこに軍事利用できる施設を設けているほか、周辺の12カイリ(約22キロ)を領海と主張している。
米国はこのうち、スービ礁などの上にできた人工島の12カイリ以内にイージス駆逐艦を派遣し、航行させた。あえて中国の許可を得ずに軍艦を進入させることで、人工島が中国の領土であることを認めない姿勢を鮮明にするためだ。
中国政府は「必要に応じてあらゆる措置をとる」と反発しており、対立が激しくなっている。しかし、国際法に照らせば、米国側に道理があるのは明らかだ。
スービ礁などはもともと、満潮になれば水没してしまう岩礁だった。いくら埋め立てによって人工島を建設しても、国際法では領海を有する島とは認められない。
仮に、米イージス艦が航行した海域が中国の領海だったという想定に立ったとしても、中国の主張には無理がある。沿岸国の秩序などを乱さず、ただ通過するだけの「無害通航」であれば、認めるというのが主要な国際ルールになっているからだ。
これらの点からみても、米軍の行動を問題視する法的な根拠が、中国にあるとは考えられない。
米国防総省は今後、数週間から数カ月間にわたり、南シナ海で似たような作戦を続けると言明している。中国側が人工島への米軍の接近を阻もうとすれば、予期しない事故が起きかねない。
南シナ海がさらに緊張するのを避けるには、まず中国が国際ルールにもとづく「航行の自由」を尊重するとともに、人工島の建設をやめることが必要だ。
南シナ海は、世界で取引される原油や液化天然ガス(LNG)の多くが通る大動脈だ。この海が不安定になれば、世界の経済にたちまち深刻な影響が及ぶ。
解決には圧力だけでなく、対話も欠かせない。11月上旬には、東南アジア諸国連合(ASEAN)の拡大防衛相会合が開かれ、日米中も出席する。日本はこの機会も利用し、米国やASEANと連携して中国に自制を求めてほしい。