CA制服、ミニスカの変遷にみる日本経済
編集委員 小林明
ミニスカ制服に賛否両論
"騒動"は複数の航空会社のCAでつくる労働組合「客室乗務員連絡会」が「業務に支障を生じる。セクハラも誘発しかねない」などとして担当官庁に制服の再検討を指導するように求める事態にも発展。CA制服への関心の高さとデザインの難しさを改めて印象付けた。
これを受け、スカイマークでは「スカートの丈にバリエーションを持たせる変更を検討している」(広報課)としており、ひざ上15センチからひざ上7センチに伸ばす案などが浮上しているようだ。「A330」の就航予定も5月31日から6月14日に先送りされた。
ひざ上15センチ→7センチに修正も
ところで、日本の航空会社のCAの制服の歴史を振り返ってみると、実は高度経済成長期にはこぞってひざ上7~8センチ程度のミニスカートを着用していたことが分かる。スカートだけでない。その時代の景気動向や世相を反映しながら、デザインや色、素材なども実に様々な変貌を遂げているのだ。
そこで今回は日本航空と全日空のCA制服の変遷をすべて検証してみることにした。さらに、1970年に大胆なミニスカートを日本航空の制服に取り入れたファッションデザイナーの森英恵さんにもインタビューした。
はたしてどんな日本経済の姿が浮かび上がるのだろうか?
表は日本航空の歴代CA制服の変遷である(写真は同社提供)。CA1期生15人が入社した51年の1代目から、昨年に導入された10代目まで。様々に変化してきたのが分かる。
高度成長期にスカート丈が一気に短く
1代目は「DC-3」による試験飛行に間に合わせるために作られたシルバーグレーの制服。スカートはひざ下15センチで小さなスリットが入っていた。2代目は初の国際線開設、3代目は初のジェット機「DC-8」の就航に合わせて導入された制服。どれもカッチリしたいかにも制服らしいデザインだが、スカートの丈に注目すると、時代を追うごとに丈が短くなっている様子がうかがえる。
67年の世界一周路線開設に合わせて導入されたのが森英恵さんがデザインした4代目。東京五輪を経て、日本人の生活水準が急速に向上。カラーテレビ、クーラー、自動車の「新・三種の神器」が一般家庭にも普及。日本は大量消費社会へと突入した。そして、大阪万博の70年にデザインした5代目でひざ上8センチの大胆なミニスカートが採用される。景気の高まりに合わせてスカート丈の短さもこの時代に1つのピークを迎えた。
70年はジャンボ機が導入され、庶民の「高根の花」だった海外旅行が徐々に身近になってきた時代でもあった。そもそもミニスカートは英国人デザイナー、マリー・クワントらの発想で人気に火が付き、60年代後半には世界中でブームになっていた。その世界的な潮流をCAの制服にも取り入れた格好だ。だが、第1次石油危機が起きる73年ごろにはブームが去り、ロングスカートやパンタロンが流行する「冬の時代」へと移る。
石油危機でロングへ、バブル崩壊後は節約志向に
6代目も森英恵さんのデザインだが、スカートの丈はかなり長め。この制服は、テレビドラマ「スチュワーデス物語」でCA訓練生を演じた堀ちえみさんが着用していたので、覚えている方も少なくないだろう。使いやすさをよく考えたデザインでCAからも好評だったようだ。
7代目はバブル期らしく肩がカッチリと張り出したダブルのスーツ。ちまたの女性たちは「ボディコン・ワンレン」で超ミニスカートをはくのがはやりだったが、CAの制服ではスカート丈を長めにまとめたようだ。やがてバブルが崩壊。不良債権処理に苦しみ、日本経済が長いトンネルに入る。8代目以降は帽子が廃止され、9代目には制服の素材をリサイクルする制度が導入されるなど節約志向が高まった。デザインもかなりシンプル。2000年代以降は世界的にも手ごろな価格の「ファストファッション」が勢いを増してきた時代だ。そして現在にいたる。
以上がJALのCA制服の大まかな変遷である。
同じ傾向は全日空にも当てはまる。表は全日空の歴代CA制服の変遷である(写真は同社提供)。1期生6人が入社した55年の1代目から来年導入される10代目まで。時代ごとに大きく様変わりしている。
では変遷を追い掛けてみよう。
1970年にひざ上7センチのミニスカート
1代目は米空軍の婦人服がモデル。2代目は紺色のツーピース。どちらも社員がデザインした。さっそうとした制服らしさが漂う。2代目は特にスカート丈が長い。清楚(せいそ)で上品な仕上がりだ。このころはまだ飛行機は庶民にとってぜいたくな乗り物だった。やはり、時代を追うごとにスカートの丈も短くなっている。
全日空でも、70年に導入した制服でひざ上7センチのミニスカートを採用した。デザインは芦田淳さん。滑走路をイメージした逆T字型の未来的なデザインで新しさを強調している。だが、スカートの短さもここがピーク。第1次石油危機が起きた翌年の74年に導入された5代目ではパンタロンを採用。ガラリとイメージチェンジした。
バブル期は肩パッドにダブルスーツ
6代目もロングスカート。デザインは三宅一生さん。スーパージャンボ機就航に合わせて導入された。制服らしからぬカジュアルなデザイン。親しみやすさや使いやすさを重視したという。5代目、6代目ともに「冬の時代」の制服。ミニの時代から大きく様変わりした。
バブル期に導入された8代目になると、全日空でも肩パッドが入ったゆったりしたダブルのスーツに切り替わる。このモデルは実に14年半の長期にわたって使用されたので、全日空のCAの制服として利用者の間でもイメージが強く定着しているようだ。デザインは芦田淳さん。そして、9代目以降は日本航空と同じようによりシンプルなデザインに移行している。
来年に導入される10代目の新制服では初めて外国人デザイナーを起用した。「色も紺以外で」とあえて会社から指定し、変化と挑戦への意気込みを表現したという。
以上が大まかな流れである。
やはり全日空の制服も景気や世相を色濃く反映しており、ミニスカート、ロングスカート、バブル期らしい肩が大きく張り出したダブルスーツを導入したタイミングは日本航空と重なる部分が多い。
制服といえどもずっと同じデザインとスタイルを貫いているわけではない。試行錯誤を繰り返して変化しており、そこに日本経済や航空業界、社会心理などの変遷を読み取ることができるのだ。
CAの制服をデザインする側はどんな思いを込めているのだろうか。日本航空の4、5、6代目の制服を手がけたファッションデザイナーの森英恵さんに当時を振り返ってもらった。
男性客の視線をかわす工夫も
――70年に導入された5代目の制服はミニスカートを採用して大きな話題になりました。
「当時は世界ではミニスカートが流行していましたので、それを取り入れました。私は女性ですから、日本の女性の美しさを世界の人に紹介したいし、応援したい。飛行機からさっそうと降り立ったときに女性が格好良く見える制服にしたい。そんな思いを込めてデザインしました。ミニだと足が長く見えますし、ステキですよね。丈はひざ上8センチくらい。そしたら大きな話題になってしまって。新聞の4コマ漫画にもすぐに取り上げられました」
――CAの制服だと審美性とともに機能性も求められます。難しさはなかったですか。
「もちろん男性客の視線も意識しました。たとえば、CAが腕を上げて高い棚から荷物を取ったりすると、ミニスカートの裾にどうしても視線が行ってしまう。だから、その対策を色々と考えたんです。たとえば、タイツに小さく赤い文字でJALのロゴを入れて、視線がほかに向かわずに社名に行くように工夫しました。素材も伸縮自在なジャージーを採用しました。これならミニスカートでも動きやすいですからね」
働く女性の美しさを世界に発信
――男性と女性の目線に大きな違いがあったわけですね。
「そうです。そこで、着て働く立場のCAのリーダーの方に何度も意見を聞きながらデザインしました。男性優位社会だったので、CAの方とは同志みたいな感じで制服づくりに取り組みましたね。『働く女性がもっと輝けるように一緒に頑張りましょう』と。ただ、男性らしい目線も否定するつもりはありません。美しさや魅力も女性の武器ですから。客に見られることで姿勢や動作などに神経が行き届く効果も期待できると思います」
――デザイナーにとってCAの制服をデザインするのはどんな意味があるのですか。
「日本の航空会社の飛行機が世界中に飛び立っていく。会社のイメージだけでなく、日本のイメージも世界に発信することになる。日本を代表する仕事になるので大きな責任を感じました。各時代の景気や世相に応じて世界の流行を取り入れなければいけないし、日本らしさもきちんと表現したい。日の丸のデザインを意識したデザインをベルトや靴に取り入れたこともあります」
――4代目や6代目の制服では思い出はありますか。
「4代目の制服では最初はピンク色を提案していたんです。CAの制服は青か紺が圧倒的に多かったから、日本らしく桜の花びらのような色にしたいと思っていた。でも、『ピンク色だと汚れが目立ちやすいのでは』という意見が会社から出て、残念ながら見送りました。そこで、空をイメージした鮮やかなスカイブルーを採用したんです」
「6代目は日本航空が国際路線を拡充し、世界に本格進出した時代。CAも寒い地域から暑い地域まで実に様々な気候の国に行くようになった。だから、多様な気候に対応しやすいようにインナーにボーダーのシャツを合わせ、ジャケットやコートも付けたんです。これなら、暑ければシャツを脱げばいいし、寒ければ上にジャケットやコートを羽織ればいい。JALの国際化を象徴する制服だったとも言えますね」
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