コマツ、「お家芸」需要予測揺らぐ 東南ア見誤る
コマツは25日、2014年3月期の連結決算を発表した。売上高営業利益率は12.3%と高収益を維持したものの、売上高、利益とも期初の予想を大きく下回った。利益率20%を掲げる3カ年計画の実現は初年度からつまずいた格好だ。円高修正と景気回復で最高益をたたき出す企業が相次ぐ中、「お家芸」である需要予測にズレが生じた。
「鉱山機械全体ではまだ厳しい」。25日の決算説明会。社長の大橋徹二の表情はさえなかった。
製造業では抜群の収益力を誇るコマツ。14年3月期も売上高が前の期比で4%増の1兆9536億円、営業利益は14%増え、2404億円と2桁の営業利益率を確保した。5%前後といわれる製造業の平均をはるかにしのぐ。
それでも、同社にとっては誤算だった。期初に立てた予想は売上高2兆500億円、営業利益3050億円。結果は大きく下回った。
「需要が戻るだろうという見方を信じてしまった」。大橋はこう悔いる。予想が外れた最大の要因はインドネシアでの鉱山機械需要の見誤りだ。
石炭などの採掘に使う鉱山機械は1台あたりの単価が高いドル箱商品。好不調がコマツの業績を大きく左右する。なかでも経済成長で需要拡大が期待されたインドネシア市場は大橋にとっても最大の関心事の一つ。昨年のゴールデンウイークには自ら現地へ飛び、顧客を回ったほどだった。
しかし、「夏のラマダンが明けたら需要が上向く」という予測は外れ、インドネシアでの新車商談はほぼストップ。鉱山機械だけで前の期比約1100億円の減収の主因となった。
「需要予測」はコマツの競争力を支えるお家芸といわれてきた。
建機や鉱山機械の稼働状況をリアルタイムで把握できる遠隔管理システム「コムトラックス」。全世界30万台以上の機械をインターネットで結び、全地球測位システム(GPS)などで場所や稼働時間などを常に監視できる。ビッグデータ時代を先取りしたこのシステムの導入がコマツの需要予測を支えてきた。
当時のインドネシアは、コムトラックスのデータでは鉱山機械の稼働時間は高水準で、資源採掘量も増えており、需要は「回復」のはずだった。
なぜ予測が外れたのか。直接的な原因は石炭価格の低下とインドネシア通貨ルピアの急落。昨夏から秋にかけて対ドルで2割近く下落、ドル建て取引が多い鉱山機械の売れ行きは今も戻っていない。
背景には、需要を左右する要因が複雑になり、その振れ幅とスピードが想定以上となっていることがある。
米連邦準備理事会(FRB)を中心とした金融当局の政策に敏感に反応し、世界のマネーは大きく動きを変え、新興国に押しては返す。資源にも流れ込み鉱山機械の需要を揺さぶる。変数が増え、機械の稼働状況だけでは需要を見通しにくい。大橋も「世の中の動きは速く、先読みが難しくなっている」と認める。
救いは世界市場でのライバルも足踏み状態にあること。米キャタピラーの13年12月期の連結売上高は前の期比16%減。「鉱山機械の回復の時期がまだ見えない」(ダグラス・オーバーヘルマン最高経営責任者)。低価格で攻勢をかける中国の三一重工も「影の銀行」の影響で売掛金の回収に不安を抱え、国内需要の伸び悩みに直面する。
この間に、コマツはさらなる競争力強化に取り組む。
大阪府枚方市の大阪工場。コムトラックスの分析部隊が4台の大型モニターを見つめる。大橋は「今まで以上にデータを集め、磨きを掛ける」と号令をかける。インドネシアなら国単位の管理でなく島単位に切り替える。よりきめ細かな経済指標を検証する。営業現場の社員を部隊に加える……。さらに強力なコムトラックスの構築が進む。
予測が揺らいでも受注できる競争力のある製品の開発も加速。需要変動リスクを減らす納期の短縮、コスト削減などプロジェクトは目白押しだ。
旗印に掲げる他社に負けない「ダントツ経営」へ。つまずきを糧にコマツの再挑戦は始まっている。=敬称略
(綱島雄太、関口慶太、上海=菅原透)
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