新電力で成長、東電出身者に託す 自由化にらむVB
福島第1原子力発電所の事故を起こした東京電力のグループ企業から、技術系社員を積極的に移籍、採用する企業がある。省エネルギーサービスを手掛ける洸陽電機(神戸市)だ。地熱発電の技術者9人を昨春までに移籍させただけでなく、水力や原子力の専門家の移籍も進める。大型発電所の建設、運営には経験者の力が不可欠。電力会社が独占してきたノウハウを手に、来年に迫る小売り自由化での成長をうかがう。
入社以来、地熱資源を担当

熊本県小国町、北海道上川町、東京都八丈町……。洸陽電機が地熱資源の調査をし、地熱発電所の建設・増設をうかがう地域だ。これまで1つも建設稼働の実績はないベンチャー企業が、複数の拠点で活動を続けられる背景には、経験豊富な「東電OB」の存在がある。
松山一夫氏は1980年に東電子会社の東電設計に入社してから、一貫して地熱資源の開発に携わってきた。現在、1000キロワット以上の大型発電所としては国内最後の新規稼働になっている東京電力八丈島地熱発電所の計画立案を担当した経験もある。
松山氏らはその後も東電グループの内部で地熱の開発を続けてきたが、思うようにならなかったことが多かったという。「八丈島発電所は3300キロワットの出力がある設備だが、2000キロワットの運転しかしていなかった」という。蒸気をくみ出す井戸が1本しか無く、定格出力に達しないのだ。「担当としては工事をして井戸を増やしたかったが、離島の八丈島で掘削すれば8億円はかかると言われて、止められてしまった」
八丈島の主力電源は火力だ。巨大な東電の組織の中で、強い発言力を持つ火力部隊は地熱の拡大に首を縦に振らなかった。地球温暖化対策が叫ばれていた中でも、地熱を拡大しようとする機運は社内では一向に広がらなかったという。
そこで起きた原発事故が松山氏の会社人生を変えた。賠償金の支払いに追われることになり、近い将来の東電による新規の地熱発電所建設の可能性はほぼなくなった。そんな松山氏に洸陽電機が移籍の話を持ちかける。移ったのは昨年3月のことだ。新エネルギー発電を強化したい洸陽電機と、地熱発電所の新増設に携わりたい松山氏のニーズが一致した。
松山氏とともに八丈島発電所の建設に関わった技術者が5人行動を共にした。さらに発電技術者3人と合わせて9人が洸陽電機に移籍し、新拠点づくりを加速させている。移籍者の中には30代や40代の若手、中堅層も含まれている。
他社で働くOBと連携も
さらに、今年に入ってから原子力発電所の主任技術者を入社させた。発電所の運転技術を持っており、開発を進めようとしている火力発電所の運転制御を担当するという。4月には東電グループで中小規模の水力発電所を建設してきた技術者数人が入社する見通しだ。
省エネサービス会社である洸陽電機が東電出身者をかき集めて、急速に発電ビジネスに舵(かじ)を切るのは、家庭部門も含めた電力自由化が16年から始まる見通しになったことにつながる。「割高であっても自然エネルギーの電気をなるべく多く使いたいと考える利用者は多くいる」(山本吉大社長)。目指すは自然エネルギーを使った電気を多く供給する新電力づくり。そのためには、ある程度、自前での電源保持が必要だとみて、準備を進めているのだ。
「東電OB」の大量採用は思わぬ効果にもつながった。ほかのエネルギー関連企業に散ったOBとのつながりが、仕事面での連携につながるケースが出始めているという。
志半ばにして、東電での業務に見切りをつけた技術者たち。国内の電力事業の足元を支えてきた彼らの力は、次はどこで発揮されるのか。2016年の家庭用を含めた電力小売り自由化を前に、その足取りは、これからの競争環境を左右するものになるのかもしれない。
(産業部 宇野沢晋一郎)
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