歌舞伎座「8月納涼歌舞伎」
亡き勘三郎ゆかりの演目並ぶ
8月の歌舞伎座は若手花形による納涼歌舞伎。この路線を20年来定着させた今は亡き勘三郎ゆかりの演目が並ぶ。盟友・三津五郎が故人の当たり役「髪結新三」を演じるのが今月見ものの第一。勘三郎の演じ方を踏襲しつつ自分の色に染め変え、新三役者として名乗りを上げた。本寸法の間がピシリピシリと決まる快感が三津五郎ならではの魅力。
対する橋之助の弥太五郎源七はいい男過ぎるきらいはあるが、三津五郎とのバランスはドンピシャリ。弥十郎の家主長兵衛も起用によく応えた。勝奴の勘九郎は将来の新三候補。秀調の善八、萬次郎のお常は揺るぎない。児太郎のお熊はつぼみのかれんさ。
別な意味での推奨随一は勘九郎の「鏡獅子」。鍛え抜いた身体能力と技。既に今の時点での最高水準。やがては父勝りかとの期待を伸びしろの内に秘める。九十翁の小山三が幕開きの老女を勤め、かくしゃく。月半ばから七之助に替わるが、残念ながら紙面には間に合わない。
福助のお光、七之助のお染、扇雀の久松、弥十郎の久作による「野崎村」も、芸の背丈のそろった好舞台。一人ひとりの肚(はら)が明確に伝わってくるのがいい。東蔵のお常が穏やかに全編を締めくくる。
第3部のメーン、「狐狸狐狸(こりこり)ばなし」は半世紀前、森繁久弥、山田五十鈴、十七世勘三郎、三木のり平という海千山千の手だれ連で初演した艶笑劇を、十八世勘三郎の手で歌舞伎に仕立て直したもの。扇雀、七之助、橋之助、勘九郎らが意外な一面を達者に見せるのが面白い。かつて勘三郎とのコンビで売った「棒しばり」を三津五郎が勘九郎と踊って一日を締めくくる。さらに福助・橋之助の「かさね」も。24日まで。
(演劇評論家 上村 以和於)