規制改革の再起動で既得権打ち破れ
安倍政権が規制改革会議の活動を再開させた。6月に改革会議が出した初の答申は雇用改革などに前進があったが、医療と農業の岩盤規制には踏みこまなかった。
アベノミクスの3本の矢のなかで、日本経済を安定成長に導くのに最も効果があるのが第3の矢の成長戦略、とりわけ規制改革だ。
医療・農業に踏みこめ
改革は既得権益を守りたい勢力とそれを後押しする官庁や族議員との闘いだ。硬い岩盤を砕く力を蓄えられるよう改革会議を支えるのは、首相官邸の責任である。
改革会議は2014年6月の第2次答申に向けて優先して取り組む案件を決めた。(1)医療分野で保険診療と自由診療の併用を認める混合診療を原則解禁する(2)保育・介護分野で社会福祉法人と株式会社などとの競争条件を対等にする(3)農業分野で農地の所有規制を見直す――の3つだ。
混合診療は、厚生労働省が今も一部の自由診療にかぎって併用を認めている。先端医療技術は日進月歩の革新を遂げており、健康保険が利かなくとも安全で有効ならその恩恵に浴したいという患者は少なくない。混合診療を原則解禁に導くのが改革会議の責務だ。
保育・介護分野は、たとえば用地難に悩む都市部で株式会社が運営する保育所や介護施設に国公有地の利用を認めるなどの改革を求めたい。規制面だけでなく、税制を対等にすることも必要だ。
農業分野は、農地を集約して生産規模を広げる法案を次期国会に出すべく農水省が準備している。県単位で設ける中間管理機構が耕作放棄地などをまとめて整備し、希望者にリースするやり方だ。
それは一歩前進だが、本丸は企業の農地所有に道を開く農業生産法人の要件緩和だ。農協の組織改革にもぜひ踏みこんでほしい。
これら3分野はともに岩盤規制の典型だ。ほかの政権より改革に熱心だった小泉政権のときから取り組んできた案件だが、今なお顕著な実績をあげていない。
改革会議は3分野について、分野別の作業グループに解決を委ねるのではなく、改革会議の委員全員で早く結論を出す方針だ。議長がいかんなく指導力を発揮し、各委員が知恵と工夫を結集させ、既得権益団体や規制官庁の岩盤を打ち破れるよう稲田朋美担当相らがもっと前へ出るべきだろう。
気になるのは、この3分野以外に新たに規制をつくったり、いったん緩めた規制を再強化したりする動きがしだいに強まってきたことだ。参院選後に巨大与党が誕生し、既得権益団体などの支援を受けた族議員が復活しつつあるのが背景ではないか。
そうした動きに官邸が歯止めをかけようとしないのは問題だ。
市販薬のインターネット販売を制限していた厚労省の裁量行政は違法だと最高裁判決が1月に断じた後、首相はネット販売の全面解禁を宣言した。だが同省は今になって解熱鎮痛剤「ロキソニンS」など28品目を数年間、ネット販売から外す規制を画策している。
改革会議はネット販売と店頭販売に不合理な差を設けないことが消費者利便を高めるという内容の意見書を出した。正論だ。それでも厚労省が規制復活にこだわる場合は、首相が厚労相に指示してやめさせなければならない。
復活・再強化の阻止を
自公両与党は民主党と組みタクシー規制を再強化する法案を次の国会に出す。タクシーの台数が多いと認めた地域は新規参入と台数増を一定の期間、禁ずる内容だ。
タクシー規制は緩和のたびに業界団体が再規制をもくろみ、国土交通省や運輸族議員に働きかける繰り返しだ。そこでは往々にして参入規制や台数制限を強めて競争を排除しようという供給側の論理が優先する。運転手として新たに職を得ようとする人や利用者の利便を高める視点を置き去りにしてよいはずがない。
法曹人口の拡大に対して日弁連は強く反対している。しかし質の高い法務サービスを企業や個人に提供する弁護士はもっと増やす必要がある。弁護士同士が切磋琢磨(せっさたくま)し、利用者のニーズに応えられない弁護士が淘汰されるのは、やむを得まい。
ほかにも日本郵政が事実上、独占する手紙・はがき事業を宅配便業者などに開放するのが積年の課題だ。信書の秘密を守りつつ、より安く確実に届ける力を備えた企業には参入を認めてよい。
改革会議の役割は事ほどさように多い。かつて首相は規制改革こそがアベノミクスの一丁目一番地だと語った。いま一度それを明確にすべきときだ。