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村上春樹「最新作」は雑誌の音楽祭リポート

小澤征爾と大西順子、奇跡の共演

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作家、村上春樹の最新作は雑誌のために書き下ろした異色の音楽祭リポートだ。新潮社の季刊「考える人」11月号巻末に、「厚木からの長い道のり 小澤征爾が大西順子と共演した『ラプソディー・イン・ブルー』サイトウ・キネン・フェスティバル松本Gig 2013年9月6日」という長いタイトルの寄稿が収まっている。

大西順子を日本トップのジャズ・ピアニストと言い切る

闘病からの復帰を期したクラシック音楽の世界的指揮者の男性と、一度は引退を決意したジャズ・ピアニストの女性。2人の奇跡の共演の仕掛け人という珍しい立ち位置から、村上は音楽、音楽家への熱い思いを少年のような率直さで語る。

かつてジャズ喫茶を営んだだけあって、音楽への傾倒はもとより深い。デューク・エリントン、アール・ハインズ、セロニアス・モンク、チャールズ・ミンガス、アーマッド・ジャマル、ランディー・ウェストン、シダー・ウォルトンらに連なるリズム感覚のジャズ・ピアニストとして、大西順子を日本のトップに挙げることにも、一切ためらいがない。

村上は大西の音楽を全身で受け止める。

「表層的なリズムの内側に、もう一つのリズム感覚が入れ子のように埋め込まれていることだ。その複合性、あるいはコンビネーションが、聴くものの身体にずぶずぶと食い込んでくる。僕は大西さんの演奏を聴いていて、いつもそのずぶずぶ感を肌身に感じることになる。僕の身体が、日常的には感じることのできない特別なリズムを貪欲に吸い込んでいることに気づく。そしてそれは、もう、他のジャズ・ピアニストからはまず得ることのできない、生き生きとして不思議な感覚なのだ」

もちろんジャズ、クラシック、ポップスといったジャンルの垣根も顧慮しない。2009~10年に著した「1Q84」ではジョージ・セルが米クリーブランド管弦楽団を指揮したヤナーチェクのオーケストラ曲「シンフォニエッタ」(ソニー)、今年のベストセラーの「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」ではラザール・ベルマンが独奏するリストのピアノ曲「巡礼の年」(ユニバーサル)に光を当て、久しく埋もれていたクラシックの名盤を復活させた。2つの小説の間、11年には世界的指揮者との対談本「小澤征爾さんと、音楽について話をする」も出した。ここではマエストロ(巨匠)への畏怖の念もあったのか、博識だが素朴な音楽ファンの範囲を超える振る舞いは、慎重に控えていた。

だが、今回は違った。大西順子の「ずぶずぶ感」を小澤とも分かち合おうと考えた時、村上は積極的なリード役に回った。

「おれは反対だ!」と叫んだマエストロ

まず都内のジャズ・クラブに誘い「いや、すごい演奏だね」の賛辞をマエストロから引き出した。大西が早過ぎる引退を決意すると「彼女の最後のライブが厚木の小さなジャズクラブであるんですよ」とささやき、「じゃあ、おれも行く」と言わせた。

だが小澤は再度、村上を圧倒する。椎間板ヘルニアの手術を終えて間もない身で小田急線本厚木の駅近く、商業ビル5階にある「せいぜい2LDKのマンションの居間の広さくらい」のジャズ・クラブ、「Cabin」に約束通り現れた。「けっこう固い椅子」にも文句ひとつ言わず約2時間、大西順子トリオ最後の演奏に耳を傾けていたのだが……。

最後に大西が「残念ながら、今夜をもって引退します」としみじみ語り出したところ、小澤は突然すくっと立ち上がった。「おれは反対だ!」。世界のオザワの唐突な叫びに、あたりは騒然となったという。大西にも村上にも「青天の霹靂(へきれき)」の事態が、松本への「長い道のり」の始まりだった。

長い音楽家どうしの話し合いを経て、大西は小澤を総監督とするサイトウ・キネン・フェスティバルへの参加を引き受けた。その時点では「ワークショップみたいなことを立ち上げ、後進の指導にあたる」と、まだ「中腰」の構えだった。大西の迷いをひっくり返し、小澤が指揮する世界の名演奏家集団「サイトウ・キネン・オーケストラ」と本格的に共演する「全面展開」へと持ち込む場面では、村上の力業がまさった。

「ガーシュインの『ラプソディー・イン・ブルー』を大西さんとサイトウ・キネン・オーケストラで聴けたら最高ですね」。村上の選曲は的を射ていた。大西の大先輩に当たるジャズの巨匠、穐吉敏子の言葉を借りれば「ジャズでもクラシックでもない、ガーシュインという天才の産物」と小澤、大西の邂逅(かいこう)を即座に結びつけられるのは、ありとあらゆる音楽に通じた者だけである。マエストロが小躍りしたのは想像に難くない。

「小澤さんが大西さんを熱く説得し、実現の運びとなりました。本当に夢のような展開です」と、村上は「サイトウ・キネン・フェスティバル松本Gig」のサイトに記した。

 9月6日、松本市のキッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)での公演チケットは発売後1時間足らずで完売した。

1800人が総立ちの横綱相撲

村上はクラシックの気むずかしい演奏者たちが大西の個性的な解釈を受け入れてくれるかどうか、不安だったらしい。だがリハーサルが進むにつれ「これを聴き逃したら後悔する」(クラリネットの山本正治)「そばで演奏していて鳥肌が立った」(ファゴットの吉田将)など、サイトウ・キネン・オーケストラの名手たちが口々に興奮を漏らし始めた。本番が終わった瞬間、1800人の聴衆は総立ちになった。大西が劇的カムバックに至るまでの日々には村上、小澤という2つの巨星の横綱相撲があった。

「満場の観客の大半は、大西順子が力強く紡ぎ出す音楽をほぼ完全に理解し、受け入れていた。僕はそのような周囲の空気をひしひしと感じることができた。それは実に至福の時間だった。オーケストラはピアニストを理解し、聴衆はオーケストラとソリストが共同で成し遂げていることを理解していた。そしてこのような共感関係をその場に出現させたのは、言うまでもなく小澤征爾という特別な、並外れた存在だった」

ふだん小説というフィクションの世界に住む村上が「事件」の当事者としてかかわり、克明に書きとめたノンフィクションはまれだろう。筆致には、コンサートさながらのライブ感覚があふれる。雑誌の編集作業を少しでも知るなら、9月6日の出来事を長々、10月発売の季刊誌に入れるのは「ほぼ不可能」と考える。「考える人」の河野通和編集長も、3カ月後の次号に載せるつもりだった。だが「村上さんは熱く語り、どうしても直近の号に収めてほしいと、最速で原稿を届けてきた」。河野編集長は大作家の特別寄稿には異例の巻末とじ込みで対応し、埼玉県内の印刷所で陣頭指揮をとった。小澤、大西、村上と世代も活躍の舞台も違う3つの才能がガーシュインの一曲で交差し、子どものように素朴な興奮を共有する。音楽とはつくづく、時空を超えた不思議のメディアである。

小澤征爾さんと、音楽について話をする

著者:小澤 征爾, 村上 春樹
出版:新潮社
価格:1,680円(税込み)

考える人 2013年 11月号 [雑誌]

著者:考える人
出版:新潮社
価格:1,400円(税込み)

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