67社が参入、最多はガス 電力小売り自由化「緒戦」
電力小売りが全面的に自由化されて6月1日で2カ月。4月に家庭向けに小売りを開始、もしくは今後の参入を表明した小売電気事業者は67社にのぼり、電力大手と顧客争奪戦を繰り広げている。日経BPクリーンテック研究所が5月に発行した『小売電気事業者総覧』では、4月20日時点の小売電気事業者の販売戦略などをまとめた。基本料金をゼロにしたり、電気料金に応じて共通ポイントを付与したりと、あの手この手で電気の多消費世帯を獲得しようと知恵を絞っている。
67社が参入あるいは参入を表明し、業種別ではガスが最も多く、再エネ・地域新電力が続く――。
日経BPクリーンテック研究所が、4月20日時点で家庭向け料金メニューを公開したり、小売りの意向を表明したりした小売電気事業者や有力な販売代理店を調べたところ、事業者の姿が浮かび上がってきた。
電力小売りの全面自由化に伴い、新たなライセンス制度として小売電気事業者が導入された。5月12日時点で登録済みの小売電気事業者は295社で、約2割が実際に電気事業に踏み出した計算になる。
業種別に見ると、都市ガスやLPガスなどを販売するガスが21社と最も多い。ガス小売りの自由化が2017年に迫っており、先手を打って電力とガスをセット販売して、顧客の流出を防ぐ考えだ。これに続くのが太陽光発電システムの販売や電力の地産地消を手掛ける再エネ・地域新電力の16社。
旧・一般電気事業者である大手電力は、沖縄電力を除く9社(東京電力は子会社の東京電力エナジーパートナー)と九州電力の子会社・九電みらいエナジーの合計10社が新しい料金メニューを出した。流通・サービス8社、通信・放送5社、石油4社、老舗新電力2社、自治体1社と続く。
東京電力エリアで41社が事業展開
小売電気事業者の事業地域を大手電力エリア別に見ると、最も多いのが東京電力エリアの41社で、関西電力エリアが26社、中部電力エリアが23社だ。沖縄電力エリアに新規参入はなく、北陸電力エリアでは同社以外に2社が展開するだけだ。9電力エリアすべてで事業を展開するのは、KDDIとNTTスマイルエナジーの2社だった。
大手電力の越境販売では、東京電力エリアに東北電力、北陸電力、中部電力、中国電力、四国電力、九電みらいエナジーの6社が参入した。一方、東京電力エナジーパートナーは、自ら中部電力と関西電力の両エリアに進出するとともに、ソフトバンクや関東地方を地盤とするニチガス、東海地方でガスをはじめとする生活サービスを提供するTOKAIグループといった異業種企業と積極的に手を結んでいる。
基本料金ゼロや単価一律プランも
これまでの主な家庭向け電気料金は、契約アンペア数によって決まる毎月定額の基本料金と、kWh(キロワット時)当たりの単価に使用電力量を乗じた電力量料金によって構成され、電力量料金の単価は使用電力量が多くなるほど段階的に高くなる仕組みだった。多くの事業者はこれに準じたプランを用意したが、自由化によって大手電力を除くと料金の規制がなくなったため、ユニークな料金プランが登場した(表1)。
その一つである「基本料金ゼロ円」は、日本エコシステムの「じぶん電力プランA」、中国電力の「シンプルコース」「ナイトホリデーコース」「ぐっとずっと。プラン シンプルコース」、Looopの「おうちプラン」、ケイ・オプティコムの「eo電気」の6つである。基本料金がなければ、使用した電力量分の料金だけを支払うことになり、顧客にとっては非常にわかりやすい。
ただし、Looopとケイ・オプティコムは5月31日までに申し込みあるいは契約した場合で、四国電力は最低月額料金を設けている。日本エコシステムは、無償の太陽光発電システムを設置することが条件になっており、対象者は限られる。Looop、ケイ・オプティコム、日本エコシステムは、原子力発電所が停止し、電気料金が高い関西電力エリアで事業を展開しており、スタートダッシュを狙った戦略といえる。
電力量料金の単価を一律にしたプランも登場した。みんな電力の「スタンダードプラン」、中部電力の「カテエネプラン」、中国電力の「シンプルコース」、大阪いずみ市民生活協同組合の「バリュープラン」、Looopの「おうちプラン」、中海テレビ放送の「電力料金プラン」の6つだ。このうちみんな電力と大阪いずみ市民生協は基本料金も一律である。坊っちゃん電力の「山嵐プラン」は、夏季とその他季で単価は変わるものの、使用電力量に関わらず同じだ。
オール電化住宅向けに4社が新規参入
一定の使用電力量まで電力量料金が定額のプランもある。東京電力エナジーパートナーの「プレミアムプラン」が代表例で、400kWhまで東京電力エリアなら9700円の定額にした。このプランはソフトバンク、ニチガス、TOKAIグループも販売する。東燃ゼネラルの「まとめてプラン」は300kWhまで、400kWhまで、500kWhまでそれぞれ定額になる3種類のプランを用意した。
大手電力は従来から、オール電化住宅などを対象に夜間の電力量料金を安く抑えたプランを販売してきた。それが可能なのは、夜間に原子力発電による電力を供給できるからだ。大手電力は4月からもオール電化住宅向けの新しいプランを用意した一方で、洸陽電機、坊っちゃん電力、みやまスマートエネルギー、ナンワエナジーの4社も参入した。
洸陽電機の「生活フィットプラン」は東京電力、中部電力、関西電力、九州電力の各エリア、坊っちゃん電力の「マドンナプラン」は四国電力エリア、みやまスマートエネルギーの「オール電化プラン」とナンワエナジーの「スタンダードオール電化」はそれぞれ九州電力エリアで販売する。各社は再生可能エネルギーや大手電力による常時バックアップの電力を活用するなどの工夫で、大手電力に対抗する構えだ。
21社が共通ポイントを活用
毎月の電気料金などに応じて顧客にポイントを付与するポイントプログラムは、36社が導入している。このうち、TポイントやPontaに代表される共通ポイントを直接付与する事業者は11社で、Tポイントが最も多く、Pontaと楽天スーパーポイントそれに続く。独自のポイントプログラムを導入したのは25社だが、10社は共通ポイントとの交換を可能にしている(表2)。関西電力はPontaやdポイント、WAONポイントなど13種類のポイントとの交換を可能としている。
独自のポイントを電気料金の支払いに利用できるのは、中部電力とNTTスマイルエナジーの2社と少ない。東京電力エナジーパートナーは2017年春ころに利用できるようにする予定で、KDDIは電子マネーの形でキャッシュバックする。
ユニークなポイント戦略を打ち出したのはJXエネルギーである。共通ポイントのTポイントにポイントを直接付与すると同時に、電気料金を支払う提携カードへのポイント付与率を高めることで、富裕層にアプローチしている。
5月以降も、電力小売りへの参入を表明する小売電気事業者は増えており、2017年4月のガス小売りの自由化に向けて競争は激化していく。その一方で、思ったような顧客数を獲得できず、戦略を見直す事業者も出てくるだろう。商品の品質に差がない電気だけに、顧客がわかりやすく、メリットを実感できる料金プランやポイントプログラムなどの販売戦略が求められる。
(日経BPクリーンテック研究所 神保重紀)