米軍、再生可能エネルギーへ移行を加速
新エネルギー産業が、古い歴史をもつ米軍と手を組むようになった。今、米軍は再生可能エネルギーと高度なテクノロジーを次々と採用している。米軍がこの産業分野に関わることで、今後、こうした市場はどう展開し、誰が主なプレーヤーになるのだろう。
米国防総省は、米国内と世界各地の基地に先端技術を導入し、兵士の命を守り、費用を節約しようとしている。即応態勢の維持が求められる米軍は、つねに発電設備と化石燃料を移動させている。だがこうした設備や資源はいつ使用不可能になったり枯渇したりして、作戦継続の妨げになるか分からない。米軍の兵士は、持続可能な電力源を携行することで、任務遂行上のリスクを軽減し、しかも温暖化ガスの排出も削減している。
国防総省に装備を納入している軍需品メーカーの米防衛大手レイセオンでテクノロジー担当副社長を務めるマーク・ラッセル氏は取材に対し、「電力について考えると、一時的な停電やサイバー攻撃を許すわけにはいかない。送電網からの電力に頼ることなく基地を運営できるようにしておく必要がある」と語る。
マイクログリッドを使用
だが具体的にはどうすればよいのだろう。国防総省は今後、発電設備や大量の化石燃料に代わって、太陽光パネルや蓄電池、マイクログリッド(風力や太陽光など、複数の発電源を併用し、電力の需給を調整する小規模電力供給システム)を活用し、閉ざされた基地内に供給する電力を確保しようとしている。レイセオンでは、この電力供給システムの開発を進め、「あらゆる要素を統合する」ソフトウエアの作成に取り組んでいる。
米カリフォルニア州サンディエゴ近郊の海兵隊航空基地では、レイセオンの技術の一部を取り入れ、国立再生可能エネルギー研究所と共同で開発したマイクログリッドを使用している。太陽光パネルで発電した電力を、プリムス・パワーが開発した蓄電システムに蓄えて送電するしくみだ。ラッセル氏によれば、この発電方式の導入で、電力を途切れることなく確実に供給できるようになったという。
国防総省では2025年までに、3000メガワットを再生可能エネルギーで賄う壮大な目標を設定している。現在、国防総省が施設の稼働や作戦の遂行で消費している電力は年間で40億ドル(約4800億円)にも上っていることを考えれば、この目標はぜひとも達成する必要があるとラッセル氏は語る。コストの大半を占めるのは、発電設備と燃料の移動に関わる物流費用だ。だが発電設備も燃料も、いずれは21世紀のテクノロジーによって過去のものになる可能性が高い。
「われわれがめざす目標は再生可能エネルギーを滞りなく生産し、管理すること」、つまり天候が荒れたり不順だったりした場合も、途切れることなく電力を確保することだとラッセル氏は語る。「エネルギーを蓄積するマイクログリッドを使ってこの業務を達成できれば、軍隊の運営や、さらには企業の運営のありかたすら変わるかもしれない」
米陸軍では、これからも民間企業との提携を続け、今後10年間にグリーンエネルギーに70億ドル(約8400億円)もの資金を投資する予定だという。陸軍は供給業者と契約を取り交わしてこうしたエネルギーを購入し、供給業者は取り決めた価格でエネルギーを提供することになる。
海軍、太陽光を14カ所に送電
また米海軍もこうした取り組みを実行に移している。海軍では長期契約を交わし、アリゾナ州フェニックス近郊にある発電量150メガワットの太陽光発電所でつくられる電力を購入して、カリフォルニア州内の14カ所の軍事施設に送電する予定だ。米エネルギー大手センプラ・エナジーが開発中のこのプロジェクトは、16年には操業を開始する予定だ。
また米軍は、戦場においても、化石燃料に頼って基地の電力を賄うことは単にリスクが高いだけでなく、割高になることを学んでいる。このため米国政府は、いろいろなものの電源になる太陽光チャージャーや小型の燃料電池で稼働する装備――通信機器やコンピューター、補助電機設備に至るまで――を兵士に支給している。
この目標の達成に向け、米軍の各部署は、軍事施設が消費する電力を自力で発電する「ネット・ゼロ戦略」に取り組んでいる。その狙いは、軍事施設のエネルギー効率を高め、ゆくゆくは外部からの電力供給に頼らないようにすることにある。
現在、レイセオンは、陸軍、海軍、空軍と密接に連携し、こうした事業の実現を目指しているという。とすれば今後、米国をはじめ、世界各地で進行しているエネルギーの変換と似た現象が起きると同社はみているのだろうか。だとすれば、誰が技術革新を主導し、新しい市場の勝者となるのだろう。
レイセオンのラッセル氏によれば、公共部門と民間企業、学術機関との協力で可能になったこうした新エネルギー技術は、徐々に実現化しつつあるという。同社の場合、国防総省が目標を設定して、プロジェクトへの資金供給を支援し、レイセオンがプロジェクトの遂行に責任を持つ。
すべての努力を結集すれば、エネルギー技術の規模が拡大を続け、病院やマイクロチップのメーカーなど、操業の中断が許されないあらゆる企業がその恩恵を享受できるようになると同氏は語る。エネルギーの生産と供給の要の役割を果たす電力会社は、顧客の要請が高まるなか、絶えず変化を続けるこうしたエネルギー経済の一翼を担うようになる。
「われわれはこのテクノロジーをできる限り発展させる」、そして他社に技術革新のチャンスを与え、その恩恵が業界全体から、さらにその先にまで広がるようにしたいとラッセル氏は話す。
画期的なエネルギー技術は、単に戦場のあり方を変えているだけではない。一部の米国企業はこうしたテクノロジーの深い影響を受け、環境を汚染しない、信頼性の高い経営ができるようになっている。米軍がこうした技術革新に投資し、成果を上げれば、他の企業や組織も開発競争への参加を望むようになるだろう。
By Ken Silverstein, Contributor
(2015年9月1日 Forbes.com)