中国、成長へ産業高度化 次期5カ年計画草案
【北京=阿部哲也】中国共産党は2016年から始まる「第13次5カ年計画」で産業の高度化と環境対策に全力を挙げる。国内の景気減速が鮮明となる中、割安な人件費やインフラ投資に頼った従来の経済構造では早晩立ちゆかなくなるとみるからだ。大気や水の汚染も深刻になっており、このままでは国民の不満が高じて党体制を脅かしかねない。習近平指導部は発展と環境の均衡を保ちつつ、難局を乗り切る構えだ。
「中国が直面する最大の挑戦は中所得国のわなをいかに乗り越えていくかだ。イノベーションこそ突破の近道になる」。中国の経済運営を主導する国家発展改革委員会(発改委)の徐紹史主任(閣僚級)は3日、記者会見を開き、次期計画で産業の高度化に力を入れる狙いをこう強調した。
「中所得国のわな」とは、1人当たり国内総生産(GDP)が3千~1万ドル程度に達した新興国で労働生産性が上がらず、成長が足踏みする現象を指す。習氏が自ら「年平均6.5%以上の成長が必要だ」と言及したのも、産業の高度化が遅れて「公約」としている所得倍増計画が達成できなくなることに強い危機感があるためだ。
党中央委員会第5回全体会議(5中全会)で採決した次期計画の草案では、製造業のレベル向上を柱に据えた。「中国は革新を生む能力、自主技術、訴求力のあるブランドが欠乏している」(発改委の徐主任)とみるからだ。対策として大学の研究機能を強化するほか、外資大手の研究開発拠点の誘致を進め、最新技術の取り込みを狙う。
重点育成の対象に挙げるのが、IT(情報技術)、ロボット、航空宇宙、船舶、鉄道、農機、新素材、創薬だ。ITを使った管理システムや産業ロボットの大量導入も進め、労働集約型の単純なモノ作りからの脱却を狙う。20年までに中国製品を「中高級ブランド」に高めるのが目標だ。
産業政策のもう一つの目玉が環境対策だ。「中国の大気、水、土壌の汚染問題はなお突出しており、改善を望む人民の声は強烈だ」。発改委の徐主任は狙いを明かす。計画草案では新エネルギーの活用拡大を挙げており、風力や太陽光、バイオ燃料を使った新型発電の比率を増やすほか、原子力発電所も増設ペースを速める方針だ。
さらに世界最大の埋蔵量を誇るとされる国内のシェールガス開発にも取り組む。プラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)などの新エネ車の普及も推し進め、20年には200万台の国内販売を目指す。いずれも対象企業には政府補助金を大幅増額する計画で、新産業の育成につなげる狙いだ。
一方、環境対策の強化は企業活動にも影響を与えそうだ。排煙・排水浄化の義務化や工場監視を強化する。繊維大手の山東如意科技集団は14年、廃水が問題となった3工場の閉鎖を迫られた。すでに先進国並みに規制が厳しくなっている地域もあり、多くの企業が「環境対策費の上昇は不可避だ。対応できない企業は淘汰される」(邸亜夫董事長)と身構える。
課題も残った。経済の質向上には非効率な大型国有企業の改革が欠かせない。しかし次期計画の草案は「国有企業をより強く、より優秀に、より大きくする方針は揺るぎない」と強調する。既得権層と結びついた国有企業が膨張すれば、経済改革の足を引っ張るリスクが高まる。